スローモーション男

あるじのスローモーション男のレビュー・感想・評価

あるじ(1925年製作の映画)
4.8
 これはめちゃくちゃ面白いです!!

 今のところドライヤーの作品で一番好きです!

 とある家庭の乱暴DV夫ヴィクトルの暴行に耐える妻イダと子供たち。それを見たお手伝いのマッソ婆さんが救うために、妻を母親の元へ返し、夫にしつけをする物語。

 これはムルナウの『サンライズ』と並んだ人生やり直し映画ではないか!
 ヴィクトルが家庭の振る舞いが分からず乱暴になっているが、イダとの別居をきっかけに家事をやらされたりして本当に大切なことを取り戻していく。

 何よりマッソが素晴らしい!この役者さん誰だろう、すごいインパクト!スパルタ教育でヴィクトルに家事をやらせる。本当に男ってみんなバカねってなります。

 あと映像がやっぱり良いですね。サイレント映画だから仕掛けが面白い。娘さんがイダの居場所が書いてある紙を渡すときネジ巻き鳥のオモチャ使って渡したり、ストーブの前に靴を置いたりしてフレームの運動を計算したりキャラクターの心情をうまく表現してます。あと覗き見をしてヴィクトルの変化を見せていくのは編集のアイリスを使っている。これこそが映画の持つべき力ですね。

 そして最後の再会シーン。すべてを許すイダと反省し愛を取り戻すヴィクトル。2人を囲うマッソやイダの母親、子供たちの姿。止まっていた時計の振り子がまた動き出す! 
 普遍的なテーマですが未だに家庭内暴力や家父長制は起きてしまっているので、この映画がどれだけ先を見越していたのかが分かります!