湯っ子

長江哀歌(ちょうこうエレジー)の湯っ子のレビュー・感想・評価

4.5
錆びて寂れて煤けた建物と豊かな緑、濁った広くて大きな河。劇伴はなく、人物たちの言葉は少なく。
静かな文芸作品ぽさを裏切る、ちょいちょい挟まれるシュールとオモシロ。最後のほうは、「あっ、ここ出るぞ…」なんて予測しちゃったり当たっちゃったりなんかして。こんな不思議なバランスの映画ってほかにあるんだろうか、あるのかもしれないけど私は知らないや、ちょっとこれはクセになる感じ。
本当にすべての画が良くて、この映画の主役は風景なんじゃないかと思ってしまう。人物たちはその風景の一部でもあるのだが、確かにそこにいて生きている。人々は自分の心のうちを語らないし、説明もないから、こちらであれこれ想像を巡らす。こういう映画は眠くなってしまうものもあるけど、たぶん私はこの監督の映像世界が好きなんだと思う、それが苦にならない。
「帰れない二人」を観てから少し背景を調べて、「懐かしむ」ことで、中国政府に対しての批判をしているのかなぁと思ったけど、本作にはもっとはっきりとした批判があった。それを市井の人々に寄り添うことで、静かに観客に訴えかけていた。
チャオ・タオが、「帰れない二人」と全く同じ衣装なのもハッとした。派手じゃないけど変わった演出。ジャ・ジャンクー監督、面白いな。他の作品も観てみたい。
湯っ子

湯っ子