りふぃ

長江哀歌(ちょうこうエレジー)のりふぃのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

大学の講義で途中まで観たものの、最後まで観なかったので数年越しに再視聴。

満点ですわあ、こちらの映画も……。

中国映画界の第6世代の監督として、世界の巨匠として名を知られる賈 樟柯 (ジャ・ジャンクー)監督の作品。

女性を攫ってきて無理矢理嫁にする話(男主人公の妻がまさにそれ)や、
ダムを作るということで街が壊されて強制移民させられることに憤る人々、
死と隣合わせで大した保証もない危険極まりない解体屋の仕事など
今日の中国政府なら絶対上映を許さない内容オンパレードの本作。

こんなこと描いてて中国政府から命狙われない?この監督大丈夫なの?と思って調べたところ、案の定、1997年から2003年までブラックリスト入りして上映禁止監督だったよう。
本作は2006年発表なので、上映禁止が解けた後の制作とは知りつつ、懲りないというか表現者としての執念を感じるというか、とにかく骨太な人。
尊敬します。

物語としては、結局権力に屈服せざるを得ない庶民という流れだった。
資本主義(お金至上主義)もまさに権力のひとつ。
しかし、人々はただ流されているわけではない。
一生懸命考えて、自分のできることを探しながら生きている。
努力が報われることなくとも死が訪れるまで淡々と生きること。
それが大切なのだと分からせられる。

映像すべてが山水画のように素晴らしいのは言うまでもなく、音も心地よい。
監督はオフィス北野と縁のある方だそうだが、あまりBGMがない感じ、人間の出す音だけを使用する感じ、そういったところに北野イズムを感じた。

起承転結がしっかりあったり、勧善懲悪が好きだったり、派手なアクションを映画に求める場合はこの映画との相性は最悪と言える。
観ない方がいい笑笑
「あーつまんなかったな、この2時間弱」となるのが目に見えている。
しかし、この社会について何か考えたい、モヤモヤするんだ!という人にはぜひオススメしたい。
明日からも淡々と生きていこうという気持ちにさせてくれる湧水みたいな映画である。


P.S.
①ちなみに!私が最も感銘を受けたのは様々な時計が部屋にぶら下げて飾ってあるシーン。
最初は「オシャレな飾り方してるなあ」程度だったが、最後に男主人公の友人が瓦礫に埋まって亡くなったシーンを見てやっとピンと来た。
恐らく、部屋中に飾られていた時計は、家屋を解体中に亡くなった人あるいは考古学の発掘中に亡くなった人が身に付けていた品だったのではないだろうか。
だから、止まっている時間がバラバラだし、同じ物が一つとしてない。
たった10秒程度のシーンで大勢の人がダム建設プロジェクトで亡くなっていることを端的に表したのだ。
鳥肌が立った。
このシーンだけでもぜひ確認していただきたい。

②大体の疑問をこのインタビュー記事が解決してくれました↓
http://report.cinematopics.com/archives/26133
りふぃ

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