くりふ

花とアリスのくりふのレビュー・感想・評価

花とアリス(2004年製作の映画)
3.0
【額入りの少女】

『花とアリス殺人事件』をみようか迷ったので、久々にレンタルしたら、煮え切らぬ心で終わりました。表層的な感覚ばかりで窮屈。こうした感覚盲信は賞味期限切れだと思った。

人物は、本人の力量で生っぽく実体化する蒼井優以外、ふわふわ幽霊みたいな人たちばかりでした。

優ちゃんは、小悪魔か天然か微妙な線を隙なく泳いで見事だと思った。逆に鈴木杏ってこんなにノッペラボーだっけ!?と驚いてしまった。

自作脚本による40男の描く少女だから、どこか額縁に入ったような感じになるのは仕方ないけれど、杏ちゃんの方はやらされ感がひどい。それこそもっと、自分の感覚そのままに人物つくっちゃえよと思った。

元々のWeb配信版はみていないけれど、短編をつないで長編化した弊害で、全体のっぺり化した気はする。大見せ場である優ちゃんバレエも、その場の成り行きで踊るだけで、物語の流れの中で求められたものじゃない。

確かに美しいが点なんですよね、上昇曲線にならない。で、周囲がスゲーって言うほどスゴイか見せてくれない。煩いカット割りとトリミング、無意味なスロー。実際は大して踊れないんじゃないか、と疑ってしまった。

岩井美学の特質である少女漫画センス、からだとやりたいことはわかります。あのバレエシーンは見開きの大きな止め絵で、周囲に花散らしてポエムなモノローグ炸裂させる漫画の決め絵なんですよね。

動的な身体言語の美しさではなく、岩井額縁に決めカットとして封じ込めようとしている。これが私には窮屈に感じてしまう。

けっこう重要モチーフなバレエへの視線自体、オッサンくさいと思った。素直に踊りたい、という少女の視線から撮っていない。

ヒロスエの「パンチラ見たいんでしょ」的セリフが象徴的。オッサンの照れ隠しでしょうが、言わせる必要ないじゃん。いくらパンツが見えようが、そんなのどうでもよくなるバレエの美しさを撮り収めるのが監督の仕事でしょうに。

少女漫画センスで言えば、花とアリスに振り回される宮本君がホント、少女に都合よい男でいかにも、なんですよね。記憶喪失のトラブルなんて、本気で悩むなら他に確認できる人いるでしょうに。落研の部長とか。どうも嘘くさくて本気で笑えない。

…などと、文句ばかり書いてしまいましたが(笑)、実際に本作以降、いわゆる岩井美学で世を騒がせる作品って出ていません。ここが限界だったのかと思ってしまうのです。

今では弟子筋的な監督が、少女漫画を原作にした良作を問うている状況ですが、小粒です。ぜひ岩井監督にはもう一度、一皮剥けた美学で巻き返してほしいです。

でも、一観客として、『花とアリス殺人事件』は…レンタルになってからみます。本作をみ直していても、これがアニメになっても面白いとはどうも、思えないのですよ。

<2015.4.4記>
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