Masato

侍のMasatoのレビュー・感想・評価

(1965年製作の映画)
3.7

岡本喜八監督と三船敏郎主演の時代劇。侍というシンプルストレートなタイトルに興味を持って鑑賞。桜田門外の変を軸に侍を求めて彷徨う男を描く。Filmarksのあらすじはネタバレ全開なのでwikiのあらすじの最初部分を読んでから見ると分かりやすい。安政の大獄などの物事は詳しくなくても教えてくれるし、そこがメインではないので平気。

侍というドストレートなタイトルはそっくりそのままの意味ではなく、非常に皮肉的なものとして描かれていたことにびっくりした。誰が父親か分からず、自分は果たして何者なのかを探し続けている新納鶴千代。自分に侍の血が流れていると思った新納は、野良犬のように彷徨いながら聞きつけた井伊直弼の暗殺の計画に参加するが…

クライマックスの桜田門外の変を圧巻ではあるが非常に血生臭く、カタルシスをもって描いていないことでどんよりとした終わり方をする。結局は何も得られずただ人を殺しただけで終わったのだろう。侍を求めて戦った結果が何一つカッコよくもなく、武勲も得られず、挙げ句には江戸時代の終幕にとどめを刺し、侍の世が終わった。あまりにも皮肉的な最後。

侍をカッコよく描かず、斬られた人が痛みで藻掻き苦しむ姿を映すような惨たらしい殺陣を描いたこの世界観は、往年の時代劇に反撥するようで、侍というヒーロー的に描かれてきた存在に対するアンチテーゼのようにも見える。これは往年の西部劇を否定したクリント・イーストウッドの「許されざる者」に似ていて、血生臭い物語におけるヒロイックさを徹底的に削ぎ落とし現実的な側面にフォーカスすることが非常に陰鬱とした味を出している。

この後味の苦さは、江戸時代、そして侍の時代の終わりという世相を反映させる意味もあったと思う。侍の時代が終わる瞬間は美しいものではなく、あまりにも醜い終わり方であったということも。


この時代の映画を久々に見ると、バシッと決まった画の構図が非常に新鮮で病みつきになるような魅力がある。それと同時に、映画に対する気持ちに喝が入り、襟を正されたような感覚にもなる。

作風も相まって鈍重で言葉による会話が多く野暮ったさはあるが、よく作られた流石の力作だった。伊藤雄之助好きすぎる。
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