しの田

僕の大事なコレクションのしの田のネタバレレビュー・内容・結末

僕の大事なコレクション(2005年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

(21.11.17)
 ウクライナを旅する。共産主義の匂い立つ都会からどんどん分け入って過去が掘り起こされていく。地名や人名、物語の構造など初めはてんでばらばらになっていたものが車に揺られてゆっくりと近づいていく。過去と現在が、心とこころが。
 爺さんは転んだユダヤ人だった、嫌な思い出のある故郷を訪れ、そして自殺。思い出の品が彼らを引き寄せたという考えに至り、とっくに捨ててしまったはずの過去に受け入れてもらったと感じる。まだ繋がっていた。といっても急旋回してユダヤに戻れるわけでもなく、爺さんは過去と共に消えた。そうすることで家族(現在)はルーツを辿ることができた…とか。
 平面的な構成が決まっていて時々カッコいいシーンになる。ひまわり畑のシーンとか息を呑んだ。こういう旧ソ連が舞台の映画はあまり見てこなかったのでむんむんの雰囲気が面白かった。タンクトップとかアディダスとか。
 これは特にイライジャ・ウッドの目が大きくてすごい。分厚いメガネと相まって凄く独特な、めっちゃ神経質そうな感じ。そして最後になるまでほとんど笑わず困った顔ばっか。かわいい。犬も可愛くてえらい。

(22.05.10)
 22年2月に始まったウクライナ侵攻は継続している。この地を巡る対立や葛藤についての議論をある程度見てきて、改めてこの映画を観ようと思った。
 ウクライナの反ユダヤ的側面を描いているため、『ひまわり』のように現代的意義を見出されることはなさそう。でもはっきり言わなくてはならないのは、この作品はロシア史観に依るものではない。
 全体として、アメリカで作られた作品であり、コメディ映画として面白おかしく戯画化しているため、ステレオタイプな描写をそのまま受け取ることはできないにしろ、ウクライナ各地の観光名所巡りという雰囲気もあり、都市部と農村など多様な暮らしの人たちが描かれている。
 おじいさんの自殺理由について、「お婆さんに終戦を伝える」という使命を達成したから満足した、というのはどうだろう。妹の遺品は自分の死後誰かが訪ねてきた時のために土中に残され、然るべき(ジョナサンが来た)時に手放された。持ち帰った故郷の土も然るべき所(祖父の墓)に撒かれた。記憶を伝えるモノは、ただ保管されているのではなく、目的を果たして使用されるのを待っていると言える。だからこそ現在に対して影響力を持つ。同じように、お爺さん自体も戦争の記憶であり、死地から生還した後の人生に積極的な意味を求めていた。帰郷によって発見した目的を達成することができ、人生に満足した。とか。
 ラストジョナサンが帰国すると、ウクライナで出会った人たちが空港にいるのを見る。これはどう見たら良いのか…?
しの田

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