樋口漱石

東京画の樋口漱石のレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
4.5
今年は小津安二郎生誕120年没後60年という節目に「PAFECTDAYS」を鑑賞して、ヴィムヴェンダースと小津安二郎に通底するものを再考したくてこのタイミングで「東京画」を鑑賞。

80年代の東京の画は現在から振り返ればノスタルジーそのものであるが、「東京物語」から30年以上経過した東京は既に「大切な何か」が失われていた。

「お茶漬けの味」や「秋刀魚の味」にパチンコやゴルフのシーンが皮肉を交えながら出てくるが、小津の目を通した予言通り、まるで夢遊病者のようにパチンコやゴルフに興ずる日本人が出てきて、滑稽を通り越して寒気すら感じた。

また蝋で作り上げた食品サンプルの工場が象徴的に映し出されていたが、食品サンプルという模倣品(役者)を通して賞味期限が切れる事なく永遠に閉じ込めようとしている様が、小津映画の笠智衆とも言えるし、本物を永遠にしたいという現れだと見て取ることも出来るだろう。

更に模倣という意味では、ローラー族(竹の子族ではなく)が米国のロカビリー文化の影響を受けてツイストしまくる映像を観て、感慨深くもあると同時に「日本の美しさ」が忘れ去られていく過程のようにも感じられた。

果たして失われた「大切な何か」とは何であるか、と80年代の日本人を見てきて、それは「禅」的な静けさ(沈思黙考)や、内なる神(=自分軸)の消失だと思った。そしてそれは残念ながら現代にも同じ事が言える。

ヴィムヴェンダースと小津安二郎に共通するのは、「無常迅速」「もののあわれ」を理解し、一瞬の煌めきを常に大事にしている(した)事だし、瞬間こそが永遠になる事を深い次元で理解していたはずである。

樋口漱石さんの鑑賞した映画