レインウォッチャー

東京画のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
3.0
成る程、これは限界オタク・ヴィム・ヴェンダースさんの《お気持ち表明》動画なのだ、と理解した。何のオタクって、もちろん小津安二郎の、だ。

小津への重すぎる愛を語り、既に彼のいなくなった東京を訪れる。そこでヴェンダースが目にしたのは、物理的・精神的両面で「小津を喪った」日本。
花見が盛りの公園で、ゴルフ練習場で、食品サンプル工場で、彼は「リッチでヘンテコなニッポン」を見つめ、欧米コンプレックスから芸術としての映画の終焉までを嘆く。正直なところ、知らんがな放っとけや、って感じではある。わたしも実体験を伴わない時代で、確かに珍に見える部分はあるにせよ。

しかし、冒頭に書いた通りオタクの極限ムーブなのだと考えれば、寄り添うこともできる。
なんだろう、推しの声優が結婚してCDを割ったりとか、(ニッチな例で申し訳ないが)いつまでもμ'sはよかった、μ'sがいた頃は、ってうるせー原理主義系ラブライバーとかとごく近いと思うのだ。「東京への旅は巡礼ではない…」とか格好つけてるけれど、今の目で見ればじゅうぶん聖地巡礼だし。

まあそんなわけでめんどくさいけど仕方ないよね気持ちはわかるよ、って感じで生暖かく観れるのだけれど、後半、笠智衆をはじめとした小津を直接知る関係者へのインタビューへ移っていくと、がぜん可愛らしさのほうが前面に出てくる。彼らが話すのとほぼ同じ内容を英語で後追いするヴェンダースは、ひととき純粋オタクの姿を取り戻す。ほぼライブ参戦動画じゃあねーか。

冒頭と結びには『東京物語』の映像がそのまま引用され、劇中の演者の表情や台詞はそのまま小津への《悼み》へと変換される。少なくとも、彼が小津を愛してやまなかった、それは確かであり、届いたよ、と思えるのであった。

-----

公園で出会う子供の撮り方には、クソガキをクソガキのまま映す確かな小津イズムが。

また、今作を踏まえて同じ東京を舞台にした『PERFECT DAYS』を観ると、ヴェンダースさんも成長した(落ち着いた?)んやな、って思えたりする。
「小津は死んだ!もういない!」ってシモンばりに思えて次へ進めたのだとしたら、まあ良かったですよね。