がちゃん

東京画のがちゃんのレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
3.5
小津安二郎監督に薫陶を受けた西ドイツ(当時)の映画作家、ヴィム・ヴェンダースが、『東京物語』(1953)の舞台となった東京を訪れた時のことを記録したドキュメント作品です。

彼が観た『東京物語』には、これぞ究極の人間社会と思われる重厚で神秘的な日本社会が描かれていましたが、作品が制作されて30年後、彼が訪れた東京は完全に変わっていた。

過度な説明も感情も入らない本作は、下手な自国産の記録映画よりも当時(1983年)の日本の市井風俗をうまく切り取っていて、記録的財産価値十分の作品です。

すっかり変わってしまった東京だが、ヴェンダース監督は、小津監督作品の常連だった、笠智衆のもとへインタビューに訪れる。

小津監督の、北鎌倉にある墓参りを挟みながらのインタビューで、ヴェンダースが捜していた東京は、偶像として作り上げられたものではなく、確かにに存在していたのだと認識します。

そして、小津作品の専属カメラマンだった、厚田雄春のを訪ね、小津の特徴的技法だったローアングルの撮影秘話を聞く。
小津作品のローアングルは、映画ファンの間でたびたび話題に上ることはあるが、ここまで具体的に示されたのは本作が初めてであろう。それも、とくにわかりやすく説明してくれるのだ。

数日前に配信サービスで『東京物語』を再見したばかりなので、こういったあたりは非常に興味深く観ました。

興味深いと言えば、ヴェンダース監督の撮った桜のころの東京の風景が、確かに私もその時代を生きてきたはずなのに、まるでSF映画の都市をみるような感覚になったところ。

一昔前の西洋人が描いたような“フジヤマ・ゲイシャ”の世界ではなく、何の誇張もないありのままの風景なのに、リドリー・スコットの描いた『ブレードランナー』の未来社会のような感じがした。

ごく普通のドキュメント映画なのに、鑑賞後は何かパラレルワールドにもでも入ってしまったような感じがする、不思議な後味の残る作品です。

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