まぬままおま

東京画のまぬままおまのレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
4.0
ヴィム・ヴェンダース監督作品。

ヴェンダースが1983年にカメラで捉えた東京の画=イメージ。それは小津作品をみてイメージしていた東京とは全く異なるだろう。

花見のサラリーマン、パチンコ、タクシー、食品サンプル、テレビ番組、野球中継。

本当らしさをみせかける虚構のものたち。それに覆い尽くされている東京。80年代の東京はまだ明るい虚構だが、その虚構さは加速して2024年現在は病的な虚構さだ。

小津作品にあった「本当の」東京。本作で挿入されている『東京物語』のシーンは舞台を尾道にしているが、改めてみると虚構にまみれている。小学生が登校している様子が描かれているが、あんなに同じ方向を同じ速度で歩くなんてありえないし、平山ととみの部屋の座り位置が同じ向きであるのもおかしすぎる。
しかし本当なのだ。意味は正しい。小学生が歩いているのをみるだけで「登校していること」は正当に伝わるし、平山ととみの座り位置は後にとみの死去による不在を際立たせるのに有効に機能している。
だから映画における「本当」とは、私たちがみたままを映し出すことではない。物語の語り手の意志をカメラが捉えた虚構だけれど、本質が映し出されたものなのだ。

ヴェンダースのみたままの東京にはもちろん本質はないし、本当でもない。本当らしさをみせかける虚構のものたちに見出すのも簡単ではない。

ただ『PERFECT DAYS』で平山が居酒屋で野球中継をみるシーンがあり、「野球中継」に本当を付与し直していることには興味深い。私としてはパチンコ屋の釘師の手や食品サンプル職人の仕事のほうに本当があったように思えるが。

撮影監督の厚田雄春にインタビューしているのはとてもよかった。厚田さんが小津の仕事に敬意をもって、全てを捧げていたことがよく分かった。特注の三脚と小津の形見のストップウォッチもみれてよかった。

また笠智衆のインタビューも面白かった。笠智衆は単なるおじいさんだった。小津作品にあった品格は皆無だった。実は本作の彼の姿こそ本当であり、虚構と本当の残酷さを感じてしまった。