くりふ

汚名のくりふのレビュー・感想・評価

汚名(1946年製作の映画)
4.0
【ノトリアスなノイズの先に】

中古DVDで何となく、見つけたので久しぶりに。

小さなお膳立てで最大効果を狙ったヒッチの佳作。おいしさの種類は幕の内弁当より丼ものに近く。たとえが悪いか(笑)。しかし後味がぐいと広がる丼ものですね。

国家間の諜報戦を、探り合う男女の三角関係の中で極小展開したことが脚本の妙味。三人の愛情はもつれ絡むわけですが、愛情が絡まないとこの作戦は成立しないジレンマ。そして愛と諜報はどちらかが勝つのか? 決して歩み寄れないのが終戦直後、冷戦幕開けの時代感でしょうか。

後味にどこか、冷ややかさが残ります。愛のすれ違い、心の摩擦が物語のサスペンスに直結しているのが一番の見どころ。諜報戦のリアルよりそちらが優先で、そこはいつものヒッチ。

例えばケイリー・グラント演じるデヴリン、彼がプロなら、任務の詳細を知る前からパートナーとなる女とあんな関係にはならないでしょう。まあここは、それだけイングリッド・バーグマン演じるアリシアが魅力的だった、という描き方にはなっていると思いますけどね。

前半はアリシアより彼、デヴリンに惹かれます。後ろ姿のシルエットで始まるこのミステリアス・ケイリー、私は好きですね。ぐっと堪えてかえって魅力が染み出す感じ。なんかオム・ファタールって言葉が浮かびました。

逆にアリシアは前半、ピンと来ないのです。ガタイよくフォーマル美なバーグマンだと、Notoriousを忘れようとやさぐれ、酒に酔わされるようには見えない。

しかし後半、その強さが任務では説得力を持ってくる。ひどい役割ですよね。美人局みたいなものだし。さすがの彼女も揺らぎますが、壊れそうにも見えない。だから酒以上に、彼女を酔わせる仕掛けが必要になる(笑)。

それでヘロヘロになるのがクライマックスですが、改めて気づき面白かったのが、愛しい人にしなだれかかる様がまったく、『ブルーベルベット』で愛しい人にしなだれかかるイザベラ・ロッセリーニと同じなんです。まぁ、母娘やね!あちらはリンチがパロディで撮ったのか、と思ったほど。

個人的には、性奴隷まで墜ちても美しいイザベラさんの方が好きなのですが、本作のイングリママも酔わされた息遣いなど艶めかしく、時々ドキドキいたします。

原題『Notorious』は、邦題にあるように父親から受けた汚名のことをまずは指すのでしょうが、デヴリン視点で見ると、彼が警戒するアリシアの有様も指していると思います。

でも前記しましたが、アリシアってそういうふりをしているようにしか見えないんですよね。だから先行き安心であることが実は透けています。

ピュアなボンデージ・クイーンという一見矛盾する女性を描いた『ベティ・ペイジ』の原題が『The Notorious Bettie Page』だったのをふと、思い出しました。

全体、木を見て森を見ず、となっている弱点は少し感じます。が、木の魅力に溢れていて、愛だろ、愛!と言い切っているのでやっぱり好きになれる作品。

ミステリアス・ケイリーは、イングリッドのNotoriousがノイズに過ぎぬことをちゃんと見抜いてくれました。

<2014.7.25記>
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