Maki

つみきのいえのMakiのレビュー・感想・評価

つみきのいえ(2008年製作の映画)
4.0

色鉛筆で描いたような優しいタッチの絵と、窓から射し込む朝靄や部屋に灯した明かりがやわらかな陰影をつくる様子で1日の時間の流れを感じられた。水の中から見上げる水面の光と船が通過していく様子は不思議で美しく水底にそびえ立つ建物の姿がまるで古代の遺跡のよう。音響も素晴らしい。窓の外に聞こえる波音と部屋の中で聞こえる水音。お爺さんが溜息のようにゆっくりと吐き出すパイプの煙と暮らしの音。台詞の無い物語の中で音の一つ一つが過ぎし日の記憶と共に慎ましく日々を生きるお爺さんの存在を静かに主張していて、お爺さんの孤独を重ね見ることができた。日本のアニメーションの技術の高さと情緒の豊かさを感じた。

地球規模で進む環境の変化に太刀打ちできずそれを受け入れていくしかない人間の存在はなんてちっぽけだろう。残酷な現実を映画では「やれやれ困ったなあ」と頭を掻くお爺さんののんびりとした様子で淡々と描かれる。観ているこちらも優しく緩い水に浸食されていくよう。
ある日、落としてしまった愛用のパイプを拾いに潜水服を着て水の中に潜ったお爺さんの目に映ったのは、水に沈んでいったかつて暮らしていた部屋の一つ一つに残された家族の面影。お爺さんの記憶の残像が昨日のことのように蘇り海の泡がいくつも浮かんで消えていく様子が胸に沁み、この場所に住み続けるお爺さんの心情も切ない。
地球上のちっぽけな存在の人間一人一人が、この環境問題を引き起こしていることを映画の中では直接的には触れない。しかし、水嵩が増す度に積み木のように積み上げてきたお爺さんの家は少しずつ小さく先細りになっていて地球の未来を揶揄しているようで、水の上に小さく儚く揺れる灯が静かに警鐘を鳴らしているようにも思えた。
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