鳥羽

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの鳥羽のレビュー・感想・評価

-
制作陣を一新し作られた大作。舞台の規模の大きさだけでも気合の入りようが分かる。
何より冒頭から凄い。台詞はなく、採掘の音が響く。そこにオーケストラの不協和音が入ってくる。PTAはこの作品を「一種のホラー」と位置付けていたが、この不協和音とサイレントのシーンは早くも監督の考えを覗かせてくれる(あるいは、この構成は舞台となった時代のサイレント映画を意識してのことかもしれない)。
制作陣だけでなく起用した俳優もこれまでとは違っており、マンネリからの脱却、あるいは新たな挑戦を感じさせる映画であるが、ダニエル・デイ・ルイスの演出はその最たるものだろう。 主人公の周りの人間は地元住人(素人)で固められた。そして物語は常に主人公の視点から離れることはない。故に要求されるのはごく自然で、かつ心情を絶妙に描き出す高いレベルの演技だが、ダニエル・デイ・ルイスは恐らく自分でそれと向き合い、PTAの言葉を借りることはあってもあくまで自分で演技を紡いでいたはずだ。PTAはそこも考慮してダニエルを起用したと思われる。
PTAはこの映画を撮る前、ロバート・アルトマンの遺作『今宵、フィッツジェラルド劇場で』の監督代行を務めている。ここで間近でアルトマンの撮り方を見た経験は確実に活かされているはずだ。それが、「アドリブ」から構築される自然な演技の追求なのではないかと思う。『パンチドランク・ラブ』までの分かりやすく“アルトマネスク”する演出からの脱却はPTAを新たな領域へ押し上げただろうし、それはよりアルトマンに近づくことだったのだと思う。
鳥羽

鳥羽