垂直落下式サミング

ノロイの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ノロイ(2005年製作の映画)
4.2
怪談・民俗学・郷土信仰研究家にして作家の小林雅文氏の取材研究に密着した記録という名目で綴られるモキュメンタリーホラー作品。
上岡龍太郎大先生がみたらブチキレそうな心霊番組をパロディにしていて、こんなもんを真剣にみているわけでもないのに、それなりに健全な距離感で面白がっていた牧歌的なお茶の間の雰囲気を感じ取り、その懐かしさといけ好かなさを思い出した。
手ブレと体験性だけを売りにした『ブレアウィッチ』的な単にそれだけのアイデアでつくっているなら、思い付きに頼ったくだらない作品だと断じてしまうが、本作はモキュメンタリーホラーとして、非常に緻密に作り込まれたユニークな作品だ。
怪奇現象作家が作ったドキュメントビデオ風の作品の体で話が進み、この物語で死亡した人の新聞記事や雑誌、嘘か本当かわからない有識者へのインタビュー、TVニュースからバライティ番組まで実際の映像を再現し、実話と虚構のグレーゾーンを往来、さすがの芸の細かさ。
ハンディカムの映像が効果的で、「今そこで起きている」映像の持つインパクトや生々しさが半端じゃない。序盤は意図的に安っぽいテレビ番組のやらせ臭さを演出し、それを物語が進むにつれて徐々に迫真性のある映像にしていくなど、胡散臭さのなかにあるリアリティに目を向けさせ、みるものの感覚を現実に肉薄させてゆく演出上のテクニックがきわめて巧みだ。
いろいろなパターンの映像資料を並べられると、その熱心さになぜか説得されてしまう。溢れる情報量で、実際に画面に映っている目に見えるものの背後にある異様な世界観が皮膚感覚で迫ってくるおぞましさ感じさせ、軽妙な編集で強引にそちら側に引き込まれてしまうかのような確信犯的な作為性のなかに、ある種の危うさを演出している。
実話怪談作家の謎の失踪、意思疏通に問題ありの霊能力者、言葉遣いで人をイライラさせる登場人物、残されたビデオテープから浮かび上がる真実、それら白石晃士映画の特徴がすべて入っているという意味で、入門編的な一作。
松本まりかとアンガールズは、出演が初々しい20代。さらに、コンビ時代の島田秀平が作中で流れる架空のテレビ番組に出演!てめえ、この頃からインチキ業に手を染めていたのか。覚悟しろ。