常盤しのぶ

死霊のはらわたの常盤しのぶのレビュー・感想・評価

死霊のはらわた(1981年製作の映画)
3.5
サム・ライミ監督出世作。MoMを観る前に観ておけとの声が多かったため便乗視聴。観終わったあとの率直な感想は『まったく、良い趣味していやがるぜ!!』だった。

私はホラー映画をあまり観ない。怖いから。そんな私の中ではホラー映画の典型的なパターンといえば怖がらせて殺してまた怖がらせて……という『とにかく怖がらせる』ことに心血を注いでいるものがほとんどだと思っていた。しかしそれは違う。いや、違うと言ってしまうと語弊があるかもしれない。ホラーにおいてより恐怖を抱かせるために重要な要素は、一時の容赦。

もしかしたらこの場から脱出できるかもしれない、もしかしたら愛する人を救えるかもしれない、もしかしたら自分だけは助かるかもしれない、もしかしたら……ホラー映画でより恐怖を感じさせるスパイスとして用いられるのがこの一時の容赦だと思った。助かると思わせておいてやはり一切の救いはないという上げて落とす戦法。一生残る恐怖と衝撃で、一生残る愛と勇気をね!!

……本作におけるそれは、私にとってとても印象に残る形で演出されていた。完全に死霊に取り憑かれた仲間が、一瞬だけ元の人間に戻るのだ。それまで見るからにどうしようもなく狂っていたのに、その一瞬だけ物語が始まった直後の真人間に見た目も含めて戻っている。もしかしたら、もしかしたら死霊に取り憑かれたのは何かの間違いで、今なんとかすれば助けられるかもしれない、という淡い期待を持ってしまう。持ってしまった。しかし、現実はそう上手くいかない。一瞬真人間に戻った仲間はまた死霊に取り憑かれ、最後は主人公に殺されてしまう。

現実にも似たような話がある。脳死状態の人間は時々涙を流すらしい。あくまで反射的な現象であり、脳死であることに変わりはない。しかし、その涙を見て『もしかしたら脳死状態から助かるかもしれない』と思わずにいられるだろうか。私がその立場であったならば多分難しいと思う。

そういった感情もあり、本作は『良い趣味をしている』と感想を述べた。全体的に低予算トンチキスプラッタ映画(ポロリもあるよ!)ではあるのだが、前述の真人間に戻るシーンが妙に印象に残ってしまっている。これがサム・ライミ監督の魅力のひとつといえるのだろう。

それはそうと最初にテープレコーダに音声を残した学者夫妻はとんだ置き土産を残したものである。何故死者を蘇らせる呪文をわざわざテープに残したのか。あれか、嫌がらせか。『俺たちだけ死んで終わらせられるか! お前らも道連れじゃ! ガハハ!』ってか。はた迷惑にも程がある。