垂直落下式サミング

インビジブルの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

インビジブル(2000年製作の映画)
4.3
秋頃にテレビ再放送を観た。
BSで放送していた1987年版『ロボコップ』に続いて次の日はケビン・ベーコン主演『インビジブル』が吹き替え版で帰って来た。巷ではヴァーホーベン大先生のブームが再燃している模様。
本作はオランダ人監督のヴァーホーベンがアメリカ時代後期に作った透明人間が題材のSFスリラー作品。彼はこういったジャンル映画監督というイメージが強いが、本来は理系のインテリ知識人でドキュメンタリー出身の社会派作家だ。にもかかわらず、目を覆いたくなるような陰惨な暴力表現を追求し、バイオレンスとセックスに満ちた世界を描き続けた変態である。
2000年に公開されたこの映画は監督自ら「空っぽな作品だ」と評すほど評価の低い作品ではあるが、余計な雑情報が入っていないため私のようなバカは心底楽しめる敷居の低いホラー作品である。
人体実験のシーンで自ら実験体となって透明血清を投薬したケビン・ベーコンが演じるマッド・サイエンティストの体が次第に透明になっていく場面がスゴくて、皮膚、血管、臓器、骨格の順に投薬の効果が現れ、最後には目に見えなくなってしまう。中々ショッキング。
そんなわけで、案の定実験が失敗し、精神に異常をきたしたベーコンは、覗き、不法侵入、強姦、殺人と…我々がもし透明人間になったらやってみたいことを全部しでかしてくれる。ここでもヴァーホーベンならではの悪趣味な描写が光る。透明人間が向かいのマンションに住む人妻をレイプするシーンの主観視点や、次々と研究所の仲間たちを惨殺していくステルスアクションは“視認できない”という生物的な優位性を感じる描写になっていて、不謹慎ながらドキドキしてしまう。何よりディレクターズカット版の隣人レイプシーンはどんなAVより抜ける。
彼女の浮気現場を目撃した後に急速に人間性が崩壊していき、凶行に歯止めが利かなくなる事態のエスカレーションが映画的。主人公たちが怪人を倒して、実験施設から出た時点で映画が終了するのも潔くて好き。怪奇特撮の一大ジャンルである透明人間のプロットを踏襲しつつ、透明人間に女性の乳房が吸われる映像をVFXで表現した先鋭的なおっぱい映画としても名高い傑作である。