Eike

ヒッチャーのEikeのレビュー・感想・評価

ヒッチャー(1986年製作の映画)
3.6
恐らく今の感覚から言えば地味でシンプルなサスペンス・スリラーになるんでしょうか。

レンタカーを移送中の若者ジムが雨が降りしきる夜に規則で禁じられていたヒッチハイカーを車に乗せたことから恐怖のどん底に突き落とされる物語。
とっさの行動によりどうにか男を車から排除したものの、その男は行く手に屍の山を築きながら彼を追いかけて来ます。
男の追跡から逃げていた若者はある予感を胸に抱きつつ、この殺人鬼に対峙することを決意するのだが…。

現代の視点からすればサイコホラーと呼ぶにはショッキングなシーンなどは控え目に映ります。
ただし例の大型トレーラーの「綱引き」のシーンは別。
あえて「見せないこと」がいかに強烈なインパクトを与えるかの好例ですね。
主演のC・トマス・ハウエル、演技派のジェニファー・J・リーの好演はもちろんなのだが、本作はルトガー・ハウアーの存在感が全てと言っても過言ではないでしょう。
確かに不気味でサイコな雰囲気もありますが、同時に孤高のカリスマ性が漂っていてなんとも不思議な魅力を醸し出しております。

後半の展開はこの謎めいた殺人鬼の若者への異常なまでの執着心が生み出したラブ・ストーリーとして読むことも可能であります。
警察署で彼に唾を吐きかけられた際の表情などもジョン・ライダーの謎めいた心理を伺わせます。
そうした点がやはり異色で、独特の雰囲気をもった作品となっており、それがいまだに人々の記憶に残る理由でありましょう。

実は元の脚本ではもっと露骨に「ホラー色」が強調されていたそうで、ジョン・ライダーによる殺戮シーン等も盛り込まれていたそうです。
しかしハウアー氏のカリスマ性と圧迫感のある演技のお陰でそれらは不要と判断されたということらしい。
実際、撮影時には役に没入したハウアーの圧迫感にC・トマス・ハウエルは呑まれ気味だったそうで、オフの時もハウアー氏には中々近づけなかったそうです。
冒頭の車内でライダーがナイフの刃先をジムの目の下に当てて言葉で彼をいたぶるシーンはハウアー氏のアドリブだったそうでハウエル氏の目に浮かぶ焦燥感はマジものらしいです。
無駄をそぎ落としたシンプルな物語に演技陣が実力を発揮するとこんなにも引き締まった作品が出来るのだという正に低予算のアメリカ映画におけるお手本の様な作品と言えるでしょう。

一番のお気に入りは警察所でライダーが尋問を受けるシーンですかね。
あの「ディズニーランド」って答える辺りは実にCoolですなぁ。
このジョン・ライダー役はサム・エリオット氏とテレンス・スタンプ氏も候補だったそうですが、ここはハウアー氏で良かったかな、と。
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