菩薩

コミッサールの菩薩のレビュー・感想・評価

コミッサール(1987年製作の映画)
4.1
子育ては戦争より大変だ、と言うのはおそらく事実なのだろう。愛人との子をお腹に宿した誇り高き革命闘士、ユダヤ人一家のあばら家を隠れ蓑に出産・子育てを続け、兵士は母になり、本来の生活も取り戻し、母国への愛は着々と人類愛へと変化していくが、そんな彼女の元に再び軍靴の足音が迫る。初めはベットを用意されても床でしか眠る事が出来なかった彼女が、ユダヤ人一家との交流を深める中で人間らしさを回復し、そして一人の立派な母へと変貌を遂げる流れはとても美しく見える。特にその一家の妻はすでに6度の出産を経た達人、こう言う人が身近にいると頼もしいどころの騒ぎでは無かろう。子供達がお風呂に入れられているシーン、小指程の大きさのおちんちんではあるがしっかり露出した亀頭、まさしくユダヤ人の証。戦時下の子供達の日常として戦争ごっこが盛んに行われる、それはある日「ユダヤ人排斥ごっこ」へと姿を変える、この様に大人の悪しき思想や風習は、遊戯を経て着々と次の世代を蝕んでいくのだろう。ユダヤ人一家による支援、交流が当時のタブーに触れペレストロイカまで20年間封印された曰く付きの作品らしいが、それよりもインターナショナルそのものを真正面から批判するシーンの方がよっぽど問題有りの様な気もするが、自己批判を経ての真の革命、みたいな事なのだろうか、チェコ・ヌーヴェルヴァーグ諸作品以上に直接的かつ攻撃的な姿勢が伺える。平穏な街に迫りつつある反革命軍、元いた戦場へ、兵士へと帰るか、それとも母として、人として生きる道を選ぶか、彼女の決断や如何に。
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