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戦争と平和のhrt2308のレビュー・感想・評価

戦争と平和(1956年製作の映画)
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久々鑑賞。

カルロ・ポンティとディノ・デ・ラウレンティス製作、キング・ヴィダー監督の文芸大作。オードリー・ヘプバーンにとっては初の大作。相手役は名優ヘンリー・フォンダ、当時の夫だったメル・ファーラー。

トルストイの膨大な原作を刈り込んでコンパクトな物語にしているがそれでも3時間を超える長尺作品。クレジットに載ってる脚本が監督含めて6人。その大変さがわかる。

時は帝政ロシア、平和主義者のピエール、優秀な軍人のアンドレイ、ふたりの間を揺れ動くナターシャ。三人の運命はナポレオンのロシア侵攻で大きく変動する。

恋に恋する乙女ナターシャの何と危ういこと。アンドレイと結婚の約束をしていながら、女癖の悪いアナトーリー(ヴィットリオ・ガスマン)にまんまと騙される。

ピエールはアナトーリーの妹エレーナ(アニタ・エクバーグ)と結婚するが、彼女の目的がピエールの財産だったことを知り夫婦関係は冷めきってしまう。

派手に遊びまわるアナトーリーとエレーナ兄妹。ピエールもナターシャもこの兄妹に高い代償を払わされる。結果的にそのことがふたりの人間的成長を促すことになる。

ロシアとフランスの会戦模様が多数のエキストラを動員して再現されている。当時の戦争がいかに兵隊がチェスの駒のような存在に過ぎないことがわかる。綺麗な軍服を身につけた兵隊たちが並んで行進し、至近距離から撃ち合いバタバタ屍となっていく。この現実をピエールは戦場で目撃し、フランス軍への怒りを露にする。人間の意識の脆さを痛感する。

大体何で民間人が戦場にノコノコ入れるの不思議だった。それにわざわざ戦争の現実を確かめに行くとはピエールはどこまでも呑気な人なのだ。やっぱり貴族だからか。

どこまでもまっすぐな人間性のピエール役はやっぱりヘンリー・フォンダが適役だったのだろう。オードリーの演技をがっちり受けとめられる安心感もある。でもフォンダ自身はこの作品は決して満足いく仕事ではなかったらしい。

この映画のオードリーは惚れ惚れするほど美しい。ナターシャという世間知らずの娘が傷つき成長して本当の愛に気づくという役にぴったり。

メル・ファーラーもアンドレイ役は彼の俳優としてのキャリアで一番輝いている役だと思う。この後はあまりいい役はない。何故かトビー・フーパー監督の「悪魔の沼」に出演してひどい目に合っていたことを思い出す。

ナターシャの兄ニコラスを演じたジェレミー・ブレッドは後年「マイ・フェア・レディ」でイライザに恋するフレディを演じ、「君住む街角」を歌っていた。同じ人だとは今まで気がつかなかった。

ナポレオンを演じているハーバード・ロムは人生の頂点からどん底に突き落とされる英雄のカリスマ振りと絶望を好演。後年、「ピンク・パンサー」シリーズでクルーゾー警部の上司ドレフュス役で笑わしてくれる。
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