くりふ

月世界旅行のくりふのレビュー・感想・評価

月世界旅行(1902年製作の映画)
3.5
【月に行ってもコロニアる】

『メリエスの素晴らしき映画魔術』の併映で、彩色版をみたのですが、大きなスクリーンで見るそれは、う~ん…ちょっと、汚かった(ぼそり)。

この修復版は、2011年のカンヌでお披露目されたそうですが、フランスのテクノ・デュオ、エールがその時つけた音楽に興味がわき、CDにこの修復版DVDが付いていたので、買って既に、みていたのです。

まずノートPCのお手頃画面でみたのですが、これがなかなか楽しかった。サイズ的に絵本を見る感覚になる。まさしくMotion Picture、動く絵本!

ドラマとしての面白さは皆無ですが、ただ眺めれば、ちょっと夢心地。

その体験が先行していたので、拡大され荒立つ画面が逆効果になってしまい。あと個人的感覚では、モノクロの方が想像力入る余地があって好きですね。

例えば、あまりに有名な月面目潰しカット(笑)。モノクロだと白っぽくて、眼から流れる液体が何か想像できたりしますが、彩色版では出血そのもの。いい色でもないし、醒めます(『ヒューゴ』ではこの色、変えてましたね)。

レトロな絵としての面白さに浸る作品で、それ以上でも以下でもないと思う。

登場人物は多いですが、個性の見分けがつかない。自分が何を演じてるか、わからない役者もいたんじゃないかなあ?ただわーわー動いてるだけで。意味もなく、お姉さんがたくさん出てくる所には大共感しますが(笑)。

『メリエスの~』でも指摘されていますが、一行が月に行き何をしたかは、すばり侵略ですよね(笑)。勝手に領土侵犯して、月世界人を虐殺して、勢力では敵わないから逃げ始める。あのラストを見ると、次、何するか心配。

「帝国主義の時代を象徴するふるまい」って、まったくその通りだと思う。当時の欧州では、これが普通の感覚だったんでしょうねえ。奇術師らしい、怪しい人間を爆発させる危うい快感は、面白いんですが。誕生期らしい原初的なキモチよさ…排泄行為みたいな…があります!(笑)

ヴェルヌの「月世界旅行」は昔々、何となく読んだ記憶があるのですが、当時としてはかなり、科学的な考証を突き詰めていたようですね。砲弾ロケットが月面着陸しないのは、技術的に戻れないからだったそうで。

一方、ウェルズの「月世界最初の人間」は奔放に書かれていたようですが、月世界人の登場を含め、メリエスの資質は明らかにウェルズ寄りでしょう。そのうち、本作の元となった二つの小説、読み比べてみたいところです。

にしても、宇宙に「天地」を創造してしまったラストには、驚きました!(笑)こんなアトラクションがあったら、ぜひ乗ってみたいですね。

<2012.11.2記>
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