こたつむり

すべて彼女のために/ラスト3デイズのこたつむりのレビュー・感想・評価

3.6
♪ お願いだ この僕と手をつないで
  地獄を見に行こう

冤罪で懲役20年の判決に絶望する妻。
そんな彼女を救うために、主人公が東奔西走する物語。

…と耳にして鑑賞したのですが、裁判に物申す展開ではなく。端的に言えば“覚悟”を描いた作品でした。愛する人のために地獄へ行けるか…?と問いかけてくるのです。

ちなみに僕の信条は「どんな選択も、覚悟した決断は尊ぶ」。世界中を敵に回しても、その“覚悟”に殉じるならば、その決断を嘲笑うことは自分の魂を汚すことと同義ですからね。泥を舐めたとしても、捨ててはいけない“ルール”だと思っています。

が。
その決断が正しいか、間違っているか、は別の話。本作の場合、主人公には子供がいますからね(これがとても可愛らしい就学前の男の子なのです)。

だから、最後の最後まで共感できませんでした。モラルや遵法精神から考えれば、彼の選択は間違っていますし、子供の立場になっても悩むところ。何しろ、幼い彼は選択できないのですから。

また、細かい演出でも共感できず。
例えば、洋画でよく見かける“壁一面に計画を貼る”行為が本作にもあるのですが、あれって後始末が大変だし、携帯することもできないし。一人で行うには不向きで、自分に酔っているだけ…と見えたのです。

あと、警察の捜査や運営も杜撰でした。
状況証拠をあらゆる角度から検討したようには思えないし、佳境に至っても油断と隙ばかり。勿論、彼らが優秀ならば物語が成立しないので…野暮なツッコミなんですけどね。

まあ、そんなわけで。
価値観を揺さぶることができる創作物は一流。
そんな定義に当てはめれば確実に一流。「愛のために」は免罪符となりうるか。また、自分の「愛」は覚悟を備えているか。自分の足元を見つめ直すに最適な作品でした。

それに上映時間が短いのも見事な限り。
説明不足とも思えるほどに削ぎ落とした物語はテンポが良く、緊迫感を醸成するに最適な判断。モラルに縛られなければ手に汗握れると思います。
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