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ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ)の都部のレビュー・感想・評価

3.4
文句なしの佳作だった『宇宙小戦争2021』と比較すると、細部の設定/展開にやはり気になるところは見られるが、独裁者に支配された国家との対立そしてそれが齎す戦争の重みという壮大なテーゼを、ミニマムな姿形をした登場人物達が繰り広げる構図とそれに付随する物語は原典として極めて秀逸である。

本作は映画作品群の中では珍しい非環境保護命題型映画で、最初から最後まで題材の面白さのみで勝負をしており、特撮映画という現実と虚構の間に揺らぎを与える存在の撮影から始まった物語の尺度が、異星人の介入によってそれを撮影する彼等の現実と非現実を接続する物語の始まりを予感させる出だしは好調だ。服を着た小指のようなパピの設定の開示から異星戦争の渦中に巻き込まれる非現実の侵食ぶりは面白く、偵察艇から挙動を隠す為にカーテンを閉めるシーン/ひみつ道具で秘密基地を作るシーンなど、子供心を華麗に擽る場面が連続することで物語のテンションを尻上がりに高めていく。

しずかの誘拐を契機として物語が宇宙に進出するスピーディー流れもドラえもんならではの速度間で、それぞれで一本映画が作れるようなプロットを前半と後半に配置されているから物語は濃密に感じられるのはあるなろう。ピリカ星での魅力的なシークエンスは、敵役(かたきやく)ドラコルルとの攻防に集中しており、一手先を往き続ける相手の挙動がとにかく小気味よい。隕石落下の下りから違和感を抱く場面など子供向け映画といえど容赦のない知能の駆動ぶりは旧新どちらも冴え渡っている。

この映画を語る時、少年兵として覚悟を決めざるを得なくなったスネ夫に触れられがちだが、個人的にはしずかに目がいく。冒頭 特撮映画を撮影する場面で、作り物であろうが"戦争"を忌避していた彼女が、スネ夫よりも先に戦地に身を投じていく姿は勇ましさを伴った強きヒロインとして魅力的な台詞と行動に演出されているのが印象的だった。

それらと比較するとピリカ星での攻防は良くも悪くも簡潔なので、スモールライトの解除による逆転劇に付随するカタルシスがやや不十分な気がしないでもないがこの辺は許容の範囲内だ。宇宙小戦争の名に恥じず戦争の本質に触れながら、ドラえもんというコンテンツのエンタメとしての幅広さを感じさせる内容は、SF戦争活劇として一定以上の水準を満たしていると言える。
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