キヲシ

丹下左膳 乾雲坤竜の巻のキヲシのネタバレレビュー・内容・結末

丹下左膳 乾雲坤竜の巻(1962年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

大友柳太郎の丹下左膳第五作目。監督が加藤泰に変わり、いままでのカラー娯楽作品からモノクロのシリアス路線に。興行的には失敗だったらしい。そりゃあそうだ、戸惑うに違いない。冒頭、頬被りしたアップ、尻絡げ姿で小野塚道場に忍び込む。名刀乾雲坤龍に手を伸ばしたままの問答から一閃、倒したものの左眼を切られる。左膳ビギニングの開幕。小野塚弥生(櫻町弘子)や門弟の間を切り抜けるシーンに、「丹下左膳」のタイトル、スタッフとキャストロール、ちょっとラテン風でパーカッシブな曲が流れる。狭く暗い路地を逃げ帰る左膳の姿をローアングルで。苦悶の声を聞いた隣人の与吉(東千代乃介)が手当てする羽目になる。この辛うじて雨が凌げる廃墟寸前の長屋が、貧乏長屋とはこれだわ。父親の看病から自室に戻る小野塚弥生(櫻町弘子)を見つめる影。画面左の奥へ続く暗い廊下に後ろ頭が現れ、画面右奥の明るい部屋に戻る弥生。なんともスリリング。刀剣狂いの藩主(花沢徳衛)に責められ再び道場へ盗みに入る左膳を刺せない弥生。大岡越前(近衛十四郎)は政治的な安定重視で左膳一人に罪を負わせる。しかし、与吉もお藤(久保菜穂子)も弥生も藩主の娘も、何故か左膳を放っておけない。牢獄から左膳を助け出す与吉が、雨夜に高い塀をよじ登るロングショット。腐りかけた左膳の左腕を鉈で切り落とす与吉とお藤。夏場の昼下がり、居候するおんぼろ屋敷の一室で迫るお藤の汗ばむ肌。穴の開いた障子をひとつひとつ閉めていく。父親の仇と追う弥生が左膳に挑む。強風が吹き抜け、弥生を押さえ込んだ左膳。見つめ合い触れそうになるが、こぼれ落ちた位牌に雲の合間から月の光がさす。与吉の協力で藩主を倒して名刀乾雲坤龍は弥生の元へ…しかし、これを床に叩きつける弥生の硬い表情。一方、寝そべる左膳を優しく見詰めるお藤、そして与吉の三人は旅の空。後味は…悪くない。
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