都部

その男、凶暴につきの都部のレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
3.6
北野武が初監督/脚本を務めた処女作で後年の『ソナチネ』などに完成度は明確に劣るものの、孤独な苦境に追い込まれた男の悲哀とその散花をニヒルな目線から描くという根本の作風はこの時より通底していると言っても良い。

冒頭から浮浪者を弄んだ少年を家に押し掛けてひたすらボコボコにするという御機嫌な入りには胸が踊り、この苛烈なファーストコンタクトをもってして『この男の行く末を知りたい』と思わせる掴みの強さは流石。
新人警官を連れての暴々たる振る舞いの数々はアナーキーな魅力に満ち溢れており、研磨された刃物のような風格を持つ若年北野武がその姿を余さず演じきっている。

しかしながらそんな暴力によるカタルシスで消化されていた物語は転調を迎え、やがて浮き彫りになるのは『組織から鼻摘み物とされた孤独な男 二人』の衝突で、組織や法律から解き放たれた彼等の死闘は決して劇的ではなく、真っ当に生きる道を失った者達が死地に辿り着く前に本懐を果たそうとする姿は哀愁をこれでもかと漂わせている。物語の幕切れにある人物が口にする台詞は本作を綺麗に総括し、暗がりの中 一筋に差し込む光が場を締める。ううむ実にクール。

作品としては中盤の展開がやや鈍重に思われる──脚本としての贅肉部分というか──が、総合的な映像作品として見ると充分に見るべき点のある佳作である。
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