といけ

その男、凶暴につきのといけのネタバレレビュー・内容・結末

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

『首』に続いて、北野武作品2作目鑑賞。
これが初監督作品。恐れ入った。
めちゃくちゃ面白い。2時間に満たない上映時間も相まってとても観やすい。あっという間だった。

序盤、署内で新聞を読みながらタバコを吸うシーン。カッコ良すぎる。

日常の中に潜むバイオレンス。
野球をしている子どもたちの目の前で金属バットで殴られる刑事。布団を叩く主婦の後ろを白い服を血で染めた男が裸足で駆け抜ける。
銃を売る喫茶店の店主。クラブのトイレで行われる麻薬のやり取り。誠実そうに見えた先輩刑事の麻薬の横流し。
そんな日常に紛れた狂気に、バイオレンス剥き出しなのが我妻。しかし確実に言えるのが自分の心の中にある揺るぎない正義の元に狂気を振り回しているということ。悪人には容赦はしないが、そうでない人には不器用ながら彼なりの優しさやユーモアを持った男だと思った。

まともなフリして振る舞う世の中において、この湾曲した正義はかなり悪目立ちする。

刑事を辞めた後、清弘らとの銃撃。
署長に自らの正義の否定され、刑事を辞めた。
それにより何かの抑圧から解放されたかのように銃を乱発する我妻。
仁藤や清弘らへの銃弾は、単純に悪を成敗する気持ちとこれまで生きてきた中で抱えていた世の中にある薄っぺらい正しさへの懐疑心を撃ち殺しているように見えた。
そして妹、灯への銃弾はこんな狂った世の中から救い出すために我妻が出した答えだったように思う。

我妻は凶暴ではあったが、横暴ではなかった。
彼も彼なりに、心のうちに潜むバイオレンスと正義に葛藤し、抗いながら生きていたように思う。
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