といけ

オッペンハイマーのといけのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

上映時間3時間を思わせない作品。一瞬だった。
物語は着実に日本にとって最悪の結果へと進む。しかし、ロスアラモスの人やアメリカ人の目はどこか輝き、希望に満ちているように見えた。
原爆投下後オッペンハイマーは核開発へ懐疑的な立場となるが、当初マンハッタン計画への参加を名誉なことのように捉えていた。

ドイツが核分裂を成功させたとの一報が入ったとき、オッペンハイマーは不可能だと黒板いっぱいに数式を書き殴る。しかし、隣の部屋で核分裂は実際に成功。理論では説明しきれないことは起こる。
原爆が広島と長崎にどれほどの死者を出すのか、オッペンハイマーは実際の数より少なく見積もっていた。しかし、その理論を超え実際はその見積もりよりも多くの被害を出すこととなる。
どれほど頭脳明晰な人でも結局投下されるまで、理論の枠からは抜け出すことはできなかった。

作中広島と長崎の惨状を描いていないという指摘があるが、描かれないのは当然だと感じた。
これはあくまでオッペンハイマーの半生を描いた作品であることを忘れてはならない。
実際にオッペンハイマーは広島への原爆投下をラジオでの大統領演説で知ったほど、原爆がどれほどの惨禍を生み出したのか実感のないものだった。広島や長崎の惨状を描かないのが、オッペンハイマーをはじめ、ロスアラモスの人たちにとってのリアルである。
トリニティ実験で、あれほどの至近距離で簡素なサングラスを掛け紫外線を気にしていたような人たちだし、当時被爆地がどんなことになったか想像できた人はほぼいなかったんじゃないか。

投下後、オッペンハイマーは民衆から英雄視される。しかし、オッペンハイマーの脳裏には原爆によって焼け死ぬ人々の幻覚。
しかしその幻想を他所に民衆は称賛し熱狂。
そしてその熱狂は、あの大きな足音に姿を変えオッペンハイマーに罪悪感となって押し寄せる。
彼らも原子爆弾の恐ろしさを知ればこの熱狂は、そして自分自身の罪悪感はおさまるだろうか。そんなオッペンハイマーの気持ちから、強烈な光、のち爆風、そして皮が剥がれる女性、黒焦げになり倒れ込み人としての姿を失ってしまったかのような人、そしてそれを踏むのはオッペンハイマー自身というシーンが生まれたのだろうか。

作品を観続けていくうち、実は今生きている自分の命も日本に投下された2発の原子爆弾によって間接的に繋がれてきた命なのではないかと思った。
実際日本は核の傘の下にある。
エネルギーという観点からも原子力とはこれからも付き合っていくこととなる。
人として被爆国である日本の国民として、あの過ちをニ度と繰り返さぬよう、核の恐ろしさを伝え続けていかないといけない。
あの時代やあの日に、日本や世界で何が行われ何が起きたのか。
改めて考え知るきっかけになる良い作品だった。

追記)鑑賞から2日後の夜、広島平和記念公園の桜並木を歩く。たくさんのグループがシートを敷き賑やかに花見をし、大勢の外国人観光客が写真を撮っている。
オッペンハイマーが作った原子爆弾が投下された広島の地で様々な国の人が暮らしている。
平穏な暮らしの中での生活の外側では、戦火が飛び交っている。内側と外側。その大きな隔たりを無くさなければならないと切に思った。
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