O次郎

死と処女(おとめ)のO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

死と処女(おとめ)(1995年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

密室劇の舞台を映画化した、鬼才監督ロマン=ポランスキーのミステリー長篇。
ようやく軍事政権が崩壊した南米の某国、学生時代の民主化運動が縁で結婚した夫婦の海辺の一軒家に夫の車のパンクを助けてくれた医師が訪れるが、妻はその男の声から彼が学生時代に自分を拷問凌辱した犯人と悟り...というショッキングなストーリー。

まずもって良いのが舞台設定であろう。
孤島の一軒家の停電した一夜の出来事だが、固有の国名・地名を使用しておらず、風土性も普遍的なため、どことなく浮世離れした画面ながら極私的なテーマを突きつけることで観るものに厭な親近感を感じさせる。
登場人物配置と人間のエゴを暴く構造は黒澤明監督の『羅生門』にも通ずるところがあるかも。

で、内容だが、とにかく過去に辱めを受けた妻を演じるシガニー=ウィーバーのキャスティングと、その取り憑かれたような演技が圧巻である。
58年米製『生きていた男』や62年米製『恐怖』、66年米製『バニー・レークは行方不明』など、「主人公の女性が主張する真実を周囲の人々が挙って否定する」というプロットは往年のミステリー作品でも見られた展開のようだが、それらは「まるで少女のような外見の幼気な女性が主張する真実が、ひょっとすると彼女一人の妄想なのかもしれない」と観客にミスリードする面白さである。当時のアン・バクスターやスーザン・ストラスバーグやキャロル・リンレーというキャスティングだからこそのものである。
本作での、中年の、美人ながら鼻梁鋭いエラの張ったシガニーが、拳銃片手に医師ベン=キングズレーにレイプの自白を強要する姿のヒステリーぶりはまさにサイコロジカルホラーの趣きであり、これもまた彼女というキャスティングだからこその味である。

シューベルトの名曲『死と処女』を背景に繰り広げられる男女の愛憎劇。
断罪の決着を経ての劇場でのラストシーンもなんとも印象的で、ポランスキー監督の悲憤と宥恕の精神が滲み出ているのではなかろうか、という知る人ぞ知る逸品なり。
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