死と処女(おとめ)の作品情報・感想・評価

『死と処女(おとめ)』に投稿された感想・評価

qwerty6

qwerty6の感想・評価

3.9
15
Roman Polanski(b.1933)
Schubert
《Der Tod und das Mädchen D.531》
ある嵐の夜、夫の帰宅を待つ妻。彼女にはかつて、反独裁政権運動に参加していた時に、誘拐監禁され、"死と処女"の曲が流れる中で目隠しをされ凌辱された過去があった。
sleepy

sleepyの感想・評価

4.6
市民・政府・司法 *****



先のレビュアーさまの絶賛に賛成。
妄執に囚われた人を描かせれば、ポランスキーは天下一品。一般に低迷していた(といわれる)1980〜90年代の作品だが、本作はユニークかつ、原点に立ち返ったかのような緊張感あふれる密室劇。また、妄執、あるいは偏執を抱える人間の過敏な精神状態を描いたという点において、ポランスキー作品の王道をいくものともいえる。

物語はいたってシンプル。南米の架空の国家、独裁政権崩壊直後のお話し。物語の舞台は、自然あふれる地方のハイランド。岬の断崖ほど近く、周囲数キロにわたり隣家がない家。登場人物はまったくの3人。時は日没から夜明けまでの数時間。嵐が近づき、外は激しい雨。しかも落雷で家は停電、電話は不通、ランプや懐中電灯の明かりのみの中、異常な物語がゆるゆると進む

妻(ウィーバー)のもとへ、夜、夫(ウィルソン)がある男を連れて帰宅する。激しい雨の中、タイアがパンクし、たまたま通りかかった男(名優キングズレー)が車で送ってくれたのだ。先に就寝した妻の耳に飛び込んできたのは、忘れようにも忘れられない20年前の悪夢を呼び覚ます忌まわしい声。「あの時の声だ」、酔いつぶれた2人へ、妻は拳銃を手にし、しのびよる・・。妻はむかし学生運動で独裁政権反対デモ中に拉致監禁された。そして目隠しされたまま数週間も拷問され、ある医者が彼女を何度も犯した。シューベルトの「死と処女(おとめ)」をかけながら・・。果たして男はあの日の加害者、サディスティックな医師なのか、それとも、「間違えられた男」、善良なる一市民なのであろうか。そして、すべて彼女の妄執・妄想なのか。3人にとって終わらない悪夢のような一夜が幕を開ける・・。

こう書くとなんだか真実発見ミステリー、あるいは復讐譚かと思われるが、そうはならないところがポランスキー。ポランスキーは何かに憑りつかれた人間を描く第一人者。妻の行為は常軌を逸しているが、単純な謝罪・真実・復讐は問題ではないと思われる。妻が望むものは、異常な心理状態、いわば「精神の密室」からの脱出・妄執からの解放なのか。「密室」「閉塞」はポランスキーの一つのキーワードであり、それは妄執の形で現れる。「反撥」「ローズマリーの赤ちゃん」「マクベス」「テナント」「袋小路」「テナント」・・。

この妄執は、「コミュニケーションの欠落」と言い換えてもよい。だいたいにおいて主人公たちは外部との断絶を抱えている。これらは大なり小なり彼の映画に底層通音として流れている。そして本作は前述のような舞台のお膳立てもあり、その意味で、本作は「精神」の密室と、「物理的」密室の2つを用意していることになる。少しだけではあるがアンドレ・カイヤット監督の『眼には眼を』が思い起こされる。僻地、復讐、異国、少ない登場人物、断絶・・。

彼の映画ではいつものことであるが、カメラが秀逸(トニーノ・デリ・コリ)。音楽はヴォイチェフ・キラール(「ドラキュラ」(コッポラ)「戦場のピアニスト」「ナインス・ゲート」。シンフォニや室内楽曲の大家でもある)。

最後に1点。この3人は、独裁国家における市民・政府・司法を代弁しているのかも知れない(夫は弁護士である)。妻の神経過敏と、独裁国家で暮らすことの不安が重なって見える。これらの意味で、正義・政治というテーマにも一瞥した作品といえる。独裁国家・南米・戦争犯罪人・サディズム・トラウマ・密室・僻地といったキーワードがひっかかった方にもオススメ。変態的表現はなく、地味だがポランスキーの「大穴」と思う。出品者から入手可能だが高額。廉価版再発を望む。

Death and the Maiden 「死と処女(おとめ)」(1994)カラー 103min. 仏・英・米。
mh

mhの感想・評価

5.0
ひさびさすごいのみた。
南米のとある国(チリがモデル)で起きた、拷問事件についての密室劇。
ミステリーでいうところのクローズドサークルという状況で、過去に起きた拷問事件の全貌が次第に明らかになっていく。一夜の嵐の間に起こった出来事。
情報を開示するタイミング、人物の出入り、謎が解けて真実に近づいていくカタルシスなど、芸術品のような完成度。
脚本すごいし、監督すごいし、役者もすごい。
クライマックスは断崖絶壁なんだけど、火サスのそれとはテンションが違いすぎる。
チリがモデルであれば、軍政下の活動家たちの話かな。クーデターが起こる前のチリは社会主義国なので、反体制のレジスタンスたちはファシストと呼ばれることになる。
旦那さんがレジスタンスメンバーのトップだったと判明するところをさらっとやるのがまたかっこいい。
「結果を考えないのは子どものすること」とかいいセリフだったけど、翻訳者戸田奈津子だった。
こういった、史実を元にした一級のエンタメがもっと作られて欲しいね。
渋谷TSUTAYAのVHSで見たんだけど、これだったらDVD買っても良かった。
とんでもなく面白かったです。
過去鑑賞。
過去に拷問を受けた女性が男性医師に逆拷問する。シガニー・ウイバーが怖ーい。ベン・キングスレー、悪みたいじゃないのに、イジメられます。
ロマンポランスキー監督の作品。

このレビューはネタバレを含みます

(放送当時のWOWOWプログラムより)
ローレンス・オリヴィエ賞のベスト・プレイに選ばれたE・ドーフマンの傑作戯曲。
ほぼ3人のみで展開するスリリングな密室サスペンス。
独裁政権崩壊後の南米某国わー舞台に、独裁政権下で拷問を受けた過去を持つヒロイン。彼女は夫が連れ帰った人物こそ自分を拷問した男に違いないと、拉致監禁して尋問を繰り広げる。


↓↓以下自分用ネタバレあらすじ備忘録↓↓

ラストは罪を告白し同じコンサートに3人いる。
緊迫感、シガニーウイーバー、レジスタンス!

大好きな友達と見に行った思い出深い映画なので、きっと一生忘れないと思う。

このレビューはネタバレを含みます

自分の夫を助けてくれた男が、以前自分を拷問、レイプしたクソ野郎だと「声」で見破り、復讐する話。

クソ野郎=ナチス時代の悪徳医師をベン・キングスレーがやっていて、
彼を追い詰めて告白させるシーンはなかなか。

シガーニーはやっぱ怖いね。もう顔からして詰寄り顔だもんね。
O次郎

O次郎の感想・評価

4.7

このレビューはネタバレを含みます

密室劇の舞台を映画化した、鬼才監督ロマン=ポランスキーのミステリー長篇。
ようやく軍事政権が崩壊した南米の某国、学生時代の民主化運動が縁で結婚した夫婦の海辺の一軒家に夫の車のパンクを助けてくれた医師が訪れるが、妻はその男の声から彼が学生時代に自分を拷問凌辱した犯人と悟り...というショッキングなストーリー。

まずもって良いのが舞台設定であろう。
孤島の一軒家の停電した一夜の出来事だが、固有の国名・地名を使用しておらず、風土性も普遍的なため、どことなく浮世離れした画面ながら極私的なテーマを突きつけることで観るものに厭な親近感を感じさせる。
登場人物配置と人間のエゴを暴く構造は黒澤明監督の『羅生門』にも通ずるところがあるかも。

で、内容だが、とにかく過去に辱めを受けた妻を演じるシガニー=ウィーバーのキャスティングと、その取り憑かれたような演技が圧巻である。
58年米製『生きていた男』や62年米製『恐怖』、66年米製『バニー・レークは行方不明』など、「主人公の女性が主張する真実を周囲の人々が挙って否定する」というプロットは往年のミステリー作品でも見られた展開のようだが、それらは「まるで少女のような外見の幼気な女性が主張する真実が、ひょっとすると彼女一人の妄想なのかもしれない」と観客にミスリードする面白さである。当時のアン・バクスターやスーザン・ストラスバーグやキャロル・リンレーというキャスティングだからこそのものである。
本作での、中年の、美人ながら鼻梁鋭いエラの張ったシガニーが、拳銃片手に医師ベン=キングズレーにレイプの自白を強要する姿のヒステリーぶりはまさにサイコロジカルホラーの趣きであり、これもまた彼女というキャスティングだからこその味である。

シューベルトの名曲『死と処女』を背景に繰り広げられる男女の愛憎劇。
断罪の決着を経ての劇場でのラストシーンもなんとも印象的で、ポランスキー監督の悲憤と宥恕の精神が滲み出ているのではなかろうか、という知る人ぞ知る逸品なり。
サイレント的処理で何かが起きる予兆に満ちた冒頭7分は傑作と思わせるが、その後会話が始まるといつもの精神分析的アプローチによる室内劇になり一気に古くなる。ポランスキーは一生治らんね。
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