深獣九

震える舌の深獣九のレビュー・感想・評価

震える舌(1980年製作の映画)
3.5
病に苦しむ幼き子のドキュメントか?
家族の愛と崩壊の物語か?

破傷風の恐ろしさを描いた社会派の作品。
おそらく野村監督は、実際にあった出来事をモチーフにしているのだろう。幼い子どもとその家族に訪れた悲劇を伝えることで、社会に警鐘を鳴らそうとしていたのだ。
破傷風の怖ろしさは、菌が体内で神経毒を発生させ、患者の自由をあっという間に奪うところだ。口が開かなくなり手足の自由が奪われ、硬直した体は痙攣し弓なりに反り返って背骨が折れるほどだという。それでなくても喉の運動機能や神経を破壊し、呼吸不全を起こし命を奪う。
患者の苦しみは凄まじく、まるで悪魔が取り憑いているかのように、この作品では描かれている。

本作の見所のひとつは、若命真裕子の演技である。病気にかかった幼い娘を演じる若命は、噛みちぎった舌の流血で口のまわりを真っ赤に染め、手をぎゅっと握りしめ苦しげに呻いたかと思うと体を海老反りにして「ギャアァァァア」と叫ぶ。
最初のうちは泣き叫ぶ我が子に涙を流していた父母も、おさまらぬ病状に徐々に精神が蝕まれお互いの気持ちを疑うようになり、己も感染ったのではないかと恐怖に震える。私も親として、見続けるのはとても苦しかった。それほどまでに若命の演技は鬼気迫っていた。

もうひとつの見所は治療の様子を映すシーン。背骨に長い針を刺して骨髄液を採取、血だらけの口をこじ開ける、指をメスで切開、口からホースで吸い出された液体、鼻から注入される流動食など。どれも痛々しくて見ていられない。ただの注射でさえ目を背けたくなる。リアルかどうかは知らないが、リアリティはえげつないほどだ。

他にも、劇伴で流れるバイオリンの音には不穏な気持ちにさせられるし、子どもの元気な頃の映像をはさむなつらすぎる、ってなる。
野村監督、人を落ち込ませる天才かよ。

乱暴に言ってしまえば子どもがただ苦しんでるだけの映画なんだけど、ドラマにすることでより伝わりやすくなっていると感じる。伝わってくることはひとそれぞれかもしれないが、間違いなく考えさせられる映画だった。

病気を克服したあの子に後遺症がないよう、心より願う。












最後に。
大部屋へ移されたあとのシーン、あっち方向の結末を想像しドキドキワクワクしてしまった私を誰が責められよう😂
深獣九

深獣九