らんらん

遙かなる帰郷のらんらんのレビュー・感想・評価

遙かなる帰郷(1997年製作の映画)
4.7
イタリアのユダヤ人作家、プリーモ・レーヴィのベストセラー記録文学『休戦』を、フランチェスコ・ロージ監督が映画化した作品。1997年。主演はジョン・タトゥーロ。原作未読。

1945年1月、ソ連軍によりアウシュビッツ収容所から解放されたプリーモは、8ヶ月をかけてイタリア・トリノに帰郷する。主にポーランドとソ連を舞台に、その道程を描く。

途中で終戦を迎えるも、食料に困り、列車は来ず、ようやく乗り込んだ列車も線路が破壊されており、やむなく徒歩で中継地へ向かう。そんな道のりの苦難も描かれるが、主眼となるのは、同じく収容所から解放され旅路を共にする人々と、プリーモ自身の心の有り様とその変化である。

「これが人間か」という体験から抜け出し、帰郷の徒となる主人公が、同じく故郷を目指す人々と共に次第に人間らしさを回復していく様子は、希望であり、苦さを和らげるものだった。

「ナチスが奪ったのは、人を思いやる心だ」という台詞が心に残る。

「怖いのは、拷問や虐待や死ではない。人を思いやる心が奪われることであり、代わりに憎悪で満たされることだ。」

正確ではないが、こんなようなことだった。
ここではナチスではあるけれど、似たような状況は、日々の中でも起こり得るのではないだろうか。
いつの間にか、気がついたら、心が憎悪で満たされている。なんて時もあるかもしれない。そして本当は奪われたのではなくて、自ら手放しているのかもしれない。心を明け渡しているのかもしれない。戦争は恐怖心から始まる、と聞いたことがある。人が憎悪の連鎖、恐怖の連鎖から逃れることが出来た時、本当に自由を得るのだと思った。そしてプリーモは、誇りを取り戻して行く。

本作は、戦火とホロコーストという人間のもたらした禍を、渦中の体験とは異なる時間軸で描き出す。
あらゆる細部をすくい上げて見つめること。即ち「書くことは恐ろしい特権」(作中より)ならば、受け取ることも、今を生きて未来を作る者の糧であり特権なのだ。


開明獣さん、ご紹介ありがとうございました!掘り出し物でした!


(アマプラで6月いっぱい?配信中です。)
らんらん

らんらん