皿鉢小鉢てんりしんり

太陽の王子 ホルスの大冒険の皿鉢小鉢てんりしんりのレビュー・感想・評価

3.3
序盤、ホルスが村に着くまでの話運びの速さとか、結構良いじゃないですか。高畑、エンタメやれば、ちゃんとこういう処理はできるぞということらしい。

ホルスが狼を避けて岩に登った、と思ったらもう次のカットで引きの絵で、岩の巨人の手が出てくる。こういう異質のものをいきなりぶっ込んで、興味を引き込む導入は結構好き。

巨大なもののサイズ感表現が全体的に良くて、おばけかますとか、出てきた瞬間に、デカいと思わせる力がある。そして観客にデカいと信じ込ませたものを、超ロングショットで画面に収めることで、世界自体の広がりを表現する。岩巨人がマンモスを倒すところとか。怪獣映画の基本みたいな話ではあるが……

村を、狼の大群が襲うシーンとネズミの大群が襲うシーンがあるが、どっちも力尽きたのか、忍者武芸帳よろしく静止画紙芝居で見せられる……
仕方ないのかもしれんけど、同じ展開を同じ演出で見せるのはさすがにダメ。こんなの観客としては、狼の襲われ方とネズミの襲われ方では、どういう違いが生じるのか、にしか映像的興味ないんだから。

ヒルダというキャラクターは、なかなか面白かった。しおらしくしたり、残酷になったり、色々な面を見せつつ、どこまでが本心なのかが全く見えない、というか自分でも分かってなさそう、という正しい意味で“悪魔的”な女。
迷いの森のバッドトリップ描写も60年代を微妙に感じてすごいが、中でもブランコに乗ったヒルダが増殖するのが、背徳的な感触。あの声は市原悦子、という無粋な現実は考えないことにしたい。

ヒルダが自分の不死身ペンダントを、マウニにあげる、という自己犠牲をするのだけど、あの後すごい引きの絵で、雪の狼みたいなものがひたすらぶつかってくるショットがよかった。ヒルダが一歳抵抗しないで、そのままばったり倒れてしまう。高畑って意外と、少女が容赦なく痛ぶられる需要にきっちり応えてくる作家なのかな?

まあしかしいくらなんでも、松明持った村人全員でグルンワルドを総括リンチしてハッピーエンド、ってそれまで描いてきたテーマからすると、ほんとどうなの、としか思えない。
絶対欺瞞を許さない高畑といえど、初監督作で当時の娯楽漫画映画だとこれが限界でした、ってことなんだろうけど。
あとグルンワルドが“悪役としての振り切れた魅力”と“迫害される者の悲しみ”、どっち方向に行くにしても、描写が足りなすぎる問題もある。