らんらん

愛しのタチアナのらんらんのネタバレレビュー・内容・結末

愛しのタチアナ(1994年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

アキ・カウリスマキ、1994年。

こんなに愛おしい映画があるだろうか。

舞台は1960年代のフィンランド。故国のシャイでこじらせきった中年男達の可愛らしさも勿論のこと、この作品の愛はフィンランド湾を挟んだ隣国のエストニアとロシアへも向いているようだ。

同年公開の前作『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』ではイスラエルとアメリカに目を向けた。
鼻が壊れたままの自由の女神は、オスロ合意の崩壊を予言していたというのは大げさだろうか。

返す刀でこの小品、63分。

マッティ・ペロンパーの遺作となったこと。ロシア人のクラウディアを演じたキルシュ・テュッキュライネンの深く絶えない微笑みも印象的だった。『哀しき天使』での朗々と歌う女店主も印象的だったけど。


結局は、ヴァルトの夢だったということだろうか。
母親を納戸に閉じ込め自宅を飛び出し車を回収、コーヒーを飲みながらテレビから流れるロックバンドの演奏に聴き入った、その束の間の白昼夢。
そう言えば、レイノもタチアナも、ヴァルト自身もどこか妖精のようだった。全てがフワフワとして根拠のない時間の連なり。ほぼ常連俳優のみの小さな構成。
けれどもぎこちなく身を寄せ合った二人のショットは強烈に心に残る。二人の筋肉の強ばりを想像できるくらいリアルだった。

ヴァルトは何も起こらなかったかのようにミシンで続きを縫い始める。さよなら、レイノ。さよなら、タチアナ。さよなら、クラウディア。

ホテルの支配人にもらったんだろうか、クラウディアのイヤリングは何だったんだろう。「イヤリングをありがとう、一生忘れないわ」
らんらん

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