いろどり

モレク神のいろどりのレビュー・感想・評価

モレク神(1999年製作の映画)
3.6
「独裁者たちのとき」のまったり感はここでもみられる。私の好きなソクーロフの幻想的な映像美を堪能できたけど、ちょっと眠くなった。霧深い山の頂きに浮かぶように佇む別荘は、まるで地に足がついていない印象を際立たせる。恋人エヴァやごますりゲッペルスたちと過ごすひとときは、さながらヒトラーの白日夢のよう。「あそこが痛いそこが調子悪い、癌で死ぬ、君は若いからわからないんだ」 とふくれっ面を見せられるのはエヴァただ一人なのに、自分のそんな一面をエヴァとの関係ごと封印したいからこそ、結婚を迫られてもできなかったのかもしれない。霧の中から現実に帰るときには鉄仮面独裁者に戻る、と決めているように見える。自分は死も克服できるというヒトラーの傲慢をバッサリ否定するエヴァのほうが現実を生きていると思わせるラストが秀逸。


モレク神とは、ユダヤ教では偶像崇拝と人身御供(ここでは生け贄として幼児を捧げること)の象徴で、キリスト教では悪魔とされているらしい。ドイツが勝利していたら、人間には優しくない神が爆誕していたでしょう。

ヒトラーが恋人からお尻に蹴りをお見舞いされるシーンがみられるヒトラープライベートムービーだけど、時折キラリと光る瞳の奥からは独裁者が常にこちらを覗いていた。
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