垂直落下式サミング

ラストキング・オブ・スコットランドの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.2
イディ・アミンがウガンダ大統領に就いてから諸外国に“人食い”と呼ばれる独裁者となるまでを、彼の主治医に抜擢されたスコットランド人青年ニコライの目を通して描いた作品。民衆の圧倒的な指示をうけたアミンが徐々に変貌していき、それによってニコライの心境が変化していく様子が緊張感溢れる演出で描かれている。
医大を卒業したばかりのヒョッコ青年医師が出てくるのは史実とは異なる創作だが、ちゃらんぽらんで日和見なモラトリアムと、怒ると何するかわからない激情家イノセンスという、対照的な二者の薄っぺらい友情がいとも簡単に破綻していく様が描かれており、また、現実の革命や戦争というのは遊びじゃないんだと、独裁だの虐殺だのとは無縁の世界に生きる我々に注意を呼びかけているように思う。
最後のほうで実際の人食いアミンの映像が出てくるが、風貌とか立ち振舞い含めてドラマ部分とそっくりなので、フォレスト・ウィテカーすごいなと。BSだかでやってるのをみていたときに、一緒に居間にいた認知症一歩手前を数年前からキープし続けるうちのボケババアが「悪いク○ンボだねぇ」とか言ったことは謝りたい。昔の人っにとっては「め○ら」や「つ○ぼ」ですらも歌の歌詞にも使われているような公用語だったわけですから、意味を自覚した若い世代が言うようなネットスラング的な使い方ではないため差別意識からくる発言ではないと思うんですけど、たまにナチュラルにこういうこと言われるとギョッとしてしまう。以外なところでジェネレーション・ギャップを発見!

話を映画に戻しますが、アミンが悪かった件はもうみんな知ってるということを踏まえた上でさらに踏み込んで、なぜアミンのような人が指導者になってしまったのかであるとか、かつての好人物が力を持つと何故こうも残忍になってしまうのかが、よく描かれており見応えがあった。
不満があるとするなら、彼が起こしたクーデターを革命モノとして肯定的に描いたものがあってもいいんじゃないかと思う。けっこう最近の映画なのになんかアミンを悪く描きすぎじゃない?
ドキュメンタリーの『アクト・オブ・キリング』でも感じたことだけど、資本主義国は世界の共産主義排斥運動を支持してたんだからさぁ、悪いところばっかりを取り上げて、いつまでも酷い酷いって言い続けるのはズルい意見だと思うんだよね。
人なんて生涯のうちのどの部分を切り取られるかによって評価は変わるもので、例えば昆虫記を発表した時のファーブルは偉人だろうけど、休日は地べたに這いつくばってスカラベを観察していた数学教師のファーブルさんは昆虫スカトロマニアのド変態でしょう。
アミン大統領は独裁者としてのイメージが強いが、政治家としては酷かっただけで、軍人アミンは国のリーダーになることを皆に望まれるような優れた人物だったはずだ。事実、オボテにしてもアミンにしてもクーデターで実権を握ったわけだし、ウガンダには何十年も続いたイギリスの植民地支配っていう背景があって、自分の国が他所からの移民ばっかりになっちゃって民族をぐちゃぐちゃにされたから、その不満を汲み上げる形で彼のような人が出てきたんじゃないの?っていう見方も出来るわけです。実際にアミンが英雄として扱われていた時期は間違いなくあるんだから、最終的に世界的な悪者になってしまったという理由だけで、ヒーローとして描いちゃいけないのはフェアじゃない。
明確な経歴を残さなかった人なので殆どが創作になるだろうけど、彼が東アフリカのボクシングチャンプになる経緯とか、白人だらけのラグビーチームで唯一の黒人選手として活躍する話とかもみたい。それだと安っぽいブラックエクスプロイテーションであるが…。