緑雨

酔いどれ天使の緑雨のレビュー・感想・評価

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
3.5
ファーストカットは泡が湧くドブ沼。畔で侘しくも拙いギターを爪弾く男。物語の舞台は全てこのドブ沼の周辺。バカでかい広告看板、頭の上を走る高架の電車、闇市の域を出ない駅前の商店街。終戦直後の、貧しくも猥雑と活気に満ちた庶民の生活感を印象に焼き付けるロケーションが強烈。

脂汗に耐える三船敏郎の荒削りでギラギラした色気は、純日本人顔が並ぶキャストの中では異彩を放つ(若い頃の氷室京介みたいだ)。志村喬もいつになくワイルドで、三船に向かってやたらと物を投げつける荒くれぶり(左利きなんだね)。

山本礼三郎のギター、笠置シヅ子の「ジャングル・ブギ」、音楽を作劇の高揚に生かす黒澤明の意外なセンスも再発見。三面鏡、ペンキ、激しく風にはためく洗濯物など、映画的興奮を盛り上げる演出も印象的だ。

ラストのヒューマニズムも黒澤らしい清廉さだが、三船演じる松永という人間の本質に迫り切れていない分、青臭さがやや勝ってしまう。
緑雨

緑雨