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マイ・ブルーベリー・ナイツのTのレビュー・感想・評価

4.8
夜の街、ネオンを撮ることにおいて、ウォンカーウァイの右に出る者はいないと思っている。
彼がいつも捉えてきたのは香港の街。90年代の雑多で雨が降る、ジメジメとして黄味がかった、魅力的な場所だった。
この作品で初めてアメリカを捉えた。
場所は違えどスローモーションと早回しを数多く交えたいつも通りの独特なテンポと映像表現だ。

なんだろうこの剥き出しでざらついた忘れられない肌触りは。ある別れ。ある出会い。

“他人は鏡のような存在ね。自分を知るための手がかり。他人の姿に自分を映すのよ。”

思慕がバトンのように繋がっていく。そしてニューヨークに帰ってくる。後ろにはいつも綺麗な玉ボケが光っていて、流れるのはハーヴェストムーンで、オーティスレディングで、ノラ自身の曲だ。このままずっとこの人たちの人生を覗いていたいなと思っていた…

ブルーベリーパイから始まったこの物語は、ずっと自分の中でバイブルになると思う。フィルムに焼き付けられた映像が、常にどこかの街角で起きているありふれた現実のようで、それでいてこの世のものとは思えないほどの煌めきを放っていたから。
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