半兵衛

怪奇な恋の物語の半兵衛のレビュー・感想・評価

怪奇な恋の物語(1969年製作の映画)
4.0
メルヴィル並みに主人公の状況設定を見る人に説明せず観客自身が努力して話を把握しなければならない展開にくわえて、冒頭の縄で縛られてヒロインに責められるフランコ・ネロをはじめとして主人公の妄想なのか現実の風景なのかよくわからないショットが次々と登場するのでわけがわからないまま映画に振り回されていく感覚に。でもそんな主観が曖昧な世界が死んだ幻の女性を追い求めているうちに夢のような世界へ迷い込んでいく主人公のドラマにフィットしていつしかこの世にいない女性を自由になれない芸術家の行き詰まったような思考がひしひしと伝わってくる。

本格的なアート(わざわざアメリカから芸術家を呼んで製作された)や幻惑的な撮影など、この時期生産されたイタリア映画とは一味違う格調のある芸術性を感じられる。でもアヴァンギャルドに尖ってしまっているので同年代のホドロフスキーや大島渚、実相寺昭雄の作風に近い印象を受けた。

現実だと思われていた何気ない会話や行動が終盤の伏線となっていく巧みな展開にゾクッとする、ラストは『perfect blue』を思い出した。

髪型のせいかフランコ・ネロがいつもより美男子っぽくてどことなくディカプリオの面影も。そんな彼が幻影に追い詰められ発狂していく演技はレアかも。

モリコーネ御大の音楽がヘンテコで耳に残る、聞けばモリコーネ本人は大層お気に入りのスコアだったらしい。

あまりにも変な作品だったせいかフランコ・ネロと当時付き合っていたヴァネッサ・レッドグレーヴ(のちに二人は結婚)の共演というスキャンダラスな刺激は吹っ飛んでいた。
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