くりふ

狩人の夜のくりふのレビュー・感想・評価

狩人の夜(1955年製作の映画)
4.0
【狩女の椅子】

日本初公開が1990年、確か俳優座シネマテン夜の部でみたのですが、その頃はまだ、本作を面白がれる視点を持っていませんでした…。

序盤の沸点、シェリー・ウィンタースが「偏愛の水中花」に変じた時、その髪のたゆたいに尋常じゃない美しさを感じてその画だけはホント、夢に見るほど刷り込まれたんですけどね。

監督チャールズ・ロートンの美意識が前面に出た作品。出過ぎちゃったというべきか(笑)。観客へのカタルシス提供よりそちらが先だから、ポップコーン食べながらイエー!と叫びたい人には不向きですね。

安易な勧善懲悪に陥らず、両義性をたっぷり含んでいるのがいい。死体なのに美しいことや、親の仇なのに救いたくなる心や…。いちばん面白いのは、信仰と愛欲とのもつれと、やさしい童話とが共存してしまうところ。子供と大人、両方に向けてつくられた欲張りな映画でもあるのでしょうきっと(笑)。

両義性を象徴するのが、ロバート・ミッチャム演じるハリーの手指に刻まれた、LOVE & HATEの文字。これらは祈るように手を合わせることで絡まってゆくも、決して調和はしない。本作の全体像にも調和は薄く、混沌とも映る物語の臓物をそのまま吐き出すように受け取れます。初監督の手探りのようですが、結果的に豊かさに転んでいて、私は好きですね。

魅力の大きなところではまず、絵画的な画づくり。時に物語が後回しに思えるほど、一枚絵を描くことに魂込めてますね。

例えば前記の水中花。まるでミレイのオフィーリア、その続きを見るよう(笑)。或いは、逃亡先で眠る子供たちの向こう、地平線に現れる追手のシルエット。死が近づくのに、影絵のような幻想を孕む不可思議な緊迫感…。まるで動く絵本だ、と思えてきます。

ジャンル横断の面白さも大きいです。大人と子供が拮抗していた物語が、ひょいと子供中心の視点へと移り、気づくと欲望渦巻くサスペンスが、夢うつつの童話へと変わっている。子供たちの川下りなんて、様々な昔話で見かける、怪物から逃げる場面そのものです。強引だけれど自由な越境。

タッチは硬質ですが、いろんな顔を持ってるんですよねこの映画。最後は倒錯的なミュージカルもある!(笑)とっつきにくさは最後まで拭えないものの、とにかく豊饒なイメージが羅列され、眼で読む映画として、とても面白いのです。

リリアン・ギッシュによる愛のバトルヒロインも出て来るし、ホント全シーンを面白がって語れそうですが、もちろん、これ以上はやめておきます(笑)。

ちなみに「偏愛の水中花」は精巧なモデルだそうですね。操り人形のようになっていく末路の姿として、妙に納得できる話です。

髪の揺らぎと同調する、長い藻の動きがこれまた見事なんですが、無花果の木を逆さにし、根を水に靡かせているそうで感心しました。ホントはここ、水面からはあんなに透けて見える筈、ないんでしょうけどね…(笑)。

<2014.2.18記>
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