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ハリー・ポッターとアズカバンの囚人のRenのレビュー・感想・評価

4.0
【ハリー・ポッター初心者日記③】

急に自分好みの面白さになってびっくりした。どこまでがJ・K・ローリングの手柄でどこからがアルフォンソ・キュアロンの手柄なのかは分からないけど、演出も物語も前2作より好き。初心者だけどエクスペクト・パトローナムなら知ってた。

タイムトラベルSF要素を後半の目玉にがっつりと盛り込んでいるため、ファンタジーみが色濃く出ている。一方でクリス・コロンバスのテーマパーク的ポップみは削がれ(冒頭の人間界のドタバタコメディはティム・バートン作品のようでこれはこれで楽しかった)、より実在感のある世界観も強調されていた。
具体的には、ロケーション撮影の多用(多分)や、子どもたちが多くの場面で制服ではなく私服を着ていることが挙げられる。ファンタジーの中のファンタジーに収めず、現実との共通項をあらゆる箇所に仕掛けることで葛藤や成長というテーマ性をぐっと我々の身近に寄せていく。
ダークファンタジー要素も、どっしりと構える地に足着いた現実味の要素も増幅させてしまう荒技がちゃんと決まっていた。

今ある問題を解決するために奔走していた前2作はどうしても世界観に比して物語が上滑りしていた感があったのだけど、今作はハリーの出生近辺の話から強固に地続きな問題に終始しており、年表の広範囲がぐぐぐと動いたような重厚感のおかげで満足度が高かった。ハリーの苦悩(復讐心)と解放という内面の葛藤も豊かで、アトラクションムービーからの明確な脱却を感じる。

ハリーの話だけでなく、その周辺のキャラクターの話もちゃんと同時並行で動いていたのも飽きないポイント。新キャラを使い捨てない覚悟。かと言って散漫にもならず、あくまでハリーが彼の父親=彼自身の秘密に迫る親子・思春期(自分は何者なのか)の話から踏み外さないのでとても観やすい。
本筋にも、バックビーグのサブストーリーにも「濡れ衣で囚われた者の救出」というテーマが通底しており、同じ向きのベクトルを持った2つの物語がラストに集結するカタルシスがあった。

総括、3作で断トツ好きだった。今作はハッピーエンドで閉じたけど、全開のハッピーではなくまだ魔法使い途中の子どもたちによる奮闘の末のなんとかハッピーエンドなのも前作から引き継いだジュブナイルものの締めとして良さげ。今後もう少しダークみは増していくのではないでしょうか?ハリーの両親の話もまだ語り落としているところは沢山あるはずなので、そこに迫るにつれハリーの苦悩も大きくなっていきそう....。

その他、
○ スネイプ先生とハーマイオニーは元々推しだったのでいいとして、急にシリウスとかルーピン先生とかバックビーグとか推さざるを得ない新キャラがいっぱい出てくると大変なのでやめてほしい(やめてほしくない)。
○ 反抗期ブチ切れハーマイオニーに萌える。逆転時計を触ろうとしたハリーの手を彼女がペシッと叩くところが今作一番の名シーン。彼女の性格も二人の距離感も絶妙な甘酸っぱさも詰まってる。この一瞬で青春映画としてのハリポタの解像度が一気に上がった気さえした。
○ 愛鼠の正体がアレだったロンが気の毒。
○ マルフォイの小物感に拍車が掛かっていてもはやマヌケだった。個人的にはもうちょいヒールな雰囲気のあるほうが好き。
○ ハーマイオニーが授業を受けまくっている件がギャグでありながら終盤の布石にもなっているのが上手い。こういうのはちゃんと伏線と呼べる。
○ タイムトラベル伏線回収大喜利はちょっと雑。ただ不自然なことを配置しただけ。
○ ラストカットは普通にダサいと思う。
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