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肉弾のTのレビュー・感想・評価

肉弾(1968年製作の映画)
4.8
大傑作!!
『日本のいちばん長い日』や『大菩薩峠』のような重厚な作品ではないけれど、岡本喜八以外にこんな映画作れるのだろうか、と思えるほどの傑作。

それまでの作品と比べると格段に画が良くないし、セットも最小限に見えます。それもそのはず、映画会社から製作費を得られず岡本喜八監督が自宅を抵当に入れて製作費を捻出した自伝的な作品なのだそう。

前作『日本のいちばん長い日』は政府や軍のの幹部たちの終戦だったのに対して、『肉弾』は特攻に選ばれた一兵士の終戦。リッチな画でないことが逆に生きたように思います。

終戦間近の1945年。主人公の「あいつ」の所属する隊では食事もままならず、例え話でなく本当に「反芻」をして飢えを凌ぐほど。「人間でなく牛だ」と上官に意見したことで、「あいつ」は服を着ることを禁じられ、「牛ですらない豚」として全裸で訓練をすることに。さらには本土決戦に備え「特攻」することを命じられてしまいます。

そんな悲惨な状況にもかかわらず、軽快な音楽がながれ岡本喜八節とも言えるコメディタッチで映画がすすんでいきます。

笠智衆演じる戦争で両腕をなくした古本屋のお爺さんの排尿を手伝うシークエンスも「兵隊さん、死んだら放尿の気持ちよさは感じられないよ」なんてセリフもあるのに全く悲惨さはなく、笑顔まで見られます。

女学生「うさぎ」との防空壕シークエンスも印象深いです。十五夜お月さん〜と歌った後に、じっくり間をとったとても映画的な場面。

海の上、魚雷をつけたドラム缶の中で「あいつ」がどうなったのか。ラストもコメディのような軽快な音楽で締めるエンディング。コメディの中に悲惨さを浮かび上がらせる、実に岡本喜八的な反戦映画!

公開年順に『日本のいちばん長い日』(1967)『肉弾』(1968)と二本立てで見ることをお勧めします!

岡本喜八Amazonプライム・ビデオ公開年順の視聴8本目。
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