ダルマパワー

東京物語のダルマパワーのネタバレレビュー・内容・結末

東京物語(1953年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

日本的な美しさが感じられる昭和の映画。狭い室内の画の中にも奥行き感が感じられ、畳に座った目線の高さで撮影される映像からは、不要な印象が除かれ、人の日常と自然な姿をそのままに感じさせてくれた。

冒頭のキャスト紹介から、小津監督の人柄を感じた。

一文字一文字人の名前を読んでいくと、丁度よく映像が切り替わるようになっていて、他の映画と違い、形式的に、乱暴に、キャスト紹介を差し込むのではなく、しっかりとその1カット1カットに、命が込められている事が伝わった。

広島弁の独特な風合いの『ありがとう』の言葉が、とても温かかった。冒頭からその言葉遣いと優しい笑顔に、目頭が熱くなってしまった。

行儀正しく付き合う家族の風景には、昔ながらの日本の姿、『親しき仲にも礼儀あり』という精神を感じた。

たが、映画を見進めると、そうした表層的な小綺麗さとは裏腹に

家族という慣れから生まれる、薄情さを強く感じた。とてもそれが、実際的で、同情なく描かれていた。

子供達が、両親をうっとがる姿、不意に見せる冷静で面倒そうな表情が、心に残った。

喪服を事前に準備したり、母親の死後にすぐに形見をせがむ姿などは、テレビの画面を通してみてこそ、なんと非情かと思ったが、きっとこれが自分も含めた人間なんだろうと、一方で思った。

まだ若い末っ子の娘さん(きょうこさん)は、納得のいかない様子だったが、
年を重ねるごとに、人は自分の人生、暮らしを大切にするようになる、というのは、本当にそうだなぁと感じた。

映画では、そんな息子、娘の気持ちを理解して、できるだけ厄介ならなかろうとする親の姿もあった。

人というのは、

若い頃はただただ真っ直ぐに生き、年を重ねて生き方と塩梅(あんばい)を覚え、老いと共に自らよりも人を案じるようになる。

そういうものなのかなぁと。

ある家族の東京物語を通して、穏やかにそれを感じさせていただいた。

そこに肯定の感情も否定の感情もなく、あぁ、これが人間なんだなぁ、と。

傑作でした。
ダルマパワー

ダルマパワー