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活きるのkyのレビュー・感想・評価

活きる(1994年製作の映画)
3.4
シリアスなテーマでありながら異常に淡々とした演出で語られてしまう、物語。その単調さが、抗えない運命と言うものを示唆させてくれます。権力に翻弄され過酷な生活を強いられる庶民。それでも心の支えとなり、守るべきものは時代が変わっても変わらない。


あらすじ
1940年代の中国。資産家の息子であるフークイは賭け事が好きな性格が災いして、彼の一家は屋敷を失ってしまいます。身ごもっていた妻チアチェンは一度は彼の元を去るも出産後に戻ってきます。しかし、戦争によって捕虜となっていたフークイ。得意の影絵で人々を楽しませる彼が戦後家に戻ると、高熱によって発話障害を負った娘の姿が。次いで産まれた息子にも悲劇が襲います。長女は結婚出産を控えるが、またしても悲劇が…。


感想
時代、国に翻弄された庶民 1940〜70年代の中国
今作に描かれているのは、1940年〜1970年代にかけての中国。この頃というと、第二次世界大戦を終えた中国は、正に激動の時代でした。というのも、戦後の中国は毛沢東率いる共産党と蒋介石率いる国民党が衝突したことで、国内が対立関係にあったからです。毛沢東によって1958年から推し進められた「大躍進政策」によって、中国では多くの餓死者を産んでしまいました。更には権力者同士の争いも絶えず多くの犠牲者を産んだ「文化大革命」へと繋がっていきます。そんな、権力者の利己主義的な政策と一般市民がそれに翻弄されな側も力強く生きる姿にフォーカスして今作は描かれています。
このような時代背景に関する映画だと、台湾を日本が統治していた1940年代を舞台に日本人教師と台湾人生徒の恋愛に関する物語「海角七号/君想う、国境の南」や、中国と台湾が対立関係にあった1969年を舞台に娼婦と兵士の関係を描いた「軍中楽園」もあります。それぞれ時代背景や舞台が違うので対比しながら鑑賞するのも、当時を知るには良いかもしれません。

権力に翻弄されながらも守るべきもの
これらの作品から感じ取ることができるのは、やはり無慈悲とも思える権力者の横暴であり、それによって従わざるを得ない運命に苦しみながらも強く生きる庶民の健気さ、そして家族を思う心でしょう。庶民が信じるものは、当然権力者です。しかし、それは表面上だけであるのかもしれません。本当に信じ、愛するのはやはり近しい家族であります。そんな権力者に翻弄されながらも家族を想う姿には感情移入せざるを得ません。
横暴な権力者のよって過酷な生活を強いられますが、それを乗り越えられるのは、やはり家族の存在が大きく、また掛け替えのないものなのでしょう。そんな大衆の機微のようなものを感じることができる作品でした。

賭博が物語るもの
冒頭でのフークイが明け暮れるものといえば博打です。それによって家財を全て失い、妻からも見放されてします訳ですが、そのあとに展開される権力者の横暴による細々とした生活と皮肉に表現されています。賭博の是非を語るわけではありませんが、細々とした生活と賭博を重ねることで自由にお金を使えることを、一層細々とした生活がシナジー的に表現します。
フークイの影芝居の演出は見事です。彼がそれを始めたのは、お金稼ぎの面が強いわけですが、古き時代にもやはり人の心を癒すのは娯楽なのでしょう。これに関しても物的にある程度満たされた現代との対比として描かれているのかもしれません。

等身大を演じる豪華キャスト
青年期から老年期までを1人で演じきったグォ・ヨウとコン・リー。彼は中国映画界の興行王、彼女は幾多の受賞歴があります。今作における2人の演技というのは、もちろん上手いのです。しかし、どこか物悲しく、儚く、シリアスで、どことも言い表せないような表情を見せてくれます。非常に趣があるというか、機微を感じるというか。演技でこのような機微を表現できるのは本当に凄い…。
フークイ家族は、数々の試練の乗り越え悲劇の家族にも見えます。そんな背景もあり、そんな姿に機微を感じるのですが、家族のために生きることを決めた人間は強く、どこか誇り高い。博打好きのフークイが更生し家族を想う姿は勿論素敵な姿だが、根気強く陰ながら家族を支える健気なコン・リーがまた良い…。
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