SANKOU

狂った一頁のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

狂った一頁(1926年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

まだ映画が生まれて間もない頃の日本で、これだけ芸術性の高い前衛的で実験的な内容の映画が作られていたことに驚いた。
予めシナリオが頭に入っていないと分からないシーンが多いが、映像のひとつひとつが観る者の心を揺さぶる驚異的な作品だった。
どしゃ降りの雨の描写、牢屋の中で躍り続ける女性患者、怒濤の映像の洪水のような冒頭シーンが凄まじい。
精神病患者の喜怒哀楽の激しい表情はともかく、登場する人物全ての感情表現が豊かで、古い作品なのにまるで今そこに生きているかのような生々しさを感じさせる。
まるで牢屋のような部屋に閉じ込められている精神病患者たち。その中の一人は、どうやらその病院で下働きをしている男の妻らしい。妻はすっかり夫のことを忘れており、彼のシャツのボタンを引きちぎり、まるでかんざしのように頭に飾ってうっとりしている。
嫁入りが決まった二人の娘はある日精神病院を訪ねるが、母は娘のことも全く覚えていない。
男は何とかして妻を逃がしてやろうとするが、嫁入り前の娘のことを考えると、気が狂ってしまった母親の存在が何らかの障害になってしまうのではないかと悩ましい思いもある。
男もどこまでが現実で、どこからが妄想なのか次第に境目が分からなくなって来る。
唐突に福引きのシーンが挿入され、幸せそうな男の表情が映し出されるが、これも男の妄想なのであろう。
最後まで観る者の心を不安にさせるような不協和音に満ちた作品で、ホラー映画以上に恐ろしく感じるシーンも多かった。
男が笑った顔のお面を患者ひとりひとりに被せていくと、彼らは急に大人しくなる。
妻にもお面を被せて自らもお面を被ると、まるで幸せそうな一組の夫婦の姿のようである。
皆がお面を被れば幸せになれる、そんな不気味だけれど幻想的なシーンも男の妄想なのだ。
感情を剥き出しにする精神病患者たちの姿も衝撃的だが、少しずつ生気を失っていく男の姿も異常であり、観終わった後に虚しさと倦怠感を覚える作品でもあった。
出来れば上映された当時のように弁士の解説付きで観てみたい映画だった。
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