垂直落下式サミング

靖国 YASUKUNIの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

靖国 YASUKUNI(2007年製作の映画)
3.5
8月15日。毎年この日には、様々な人々が様々な理由で靖国神社を訪れる。
このドキュメンタリーは靖国神社内で今も働いている1人の刀鍛冶へのインタビューと、8月15日に境内を訪れる人の声と姿をつなぎ合わせることで、我が国の靖国神社をめぐる問題を浮き彫りにしていく。
靖国神社を取り巻く人々のなかに身一つで飛び込んでゆく手法で綴られており、社会的に危険なことを言わないぬる錆びたニュース番組だのワイドショーだのに辟易している身としては、ようやく新鮮な空気を吸えたような気がした。
普段、この手合いの映画をみても、リベラル気取ってる奴らは良い子ぶってていけ好かないし、タカ派の連中は頭悪すぎておはなしにならないな、っていうありがちな感想しか抱かないんだけど、本作に関しては、そういった個人的なイデオロギーを抜きにしてもみるところがある。とても不思議な映画だと思う。
靖国神社を巡る人間模様を通して、こんなことをしていては、戦死者の魂いつまで経っても安らかに眠れないのではないかと、柄にもなくセンチな気分になってしまった。
主題についてだが、「靖国」を特別視しすぎるのは、もうそろそろやめにしてもいいと思う。この施設と歴史的事実を切り離して、厳密に一宗教法人に立ち返り、国や歴史との関係を解消することは出来ないのだろうか。
戦犯とされた人たちとの合祀が気に入らないのなら、遺族の意向を聞き入れてそれを尊重し、意思にそぐわない者の名簿を削除することは可能だろうし、今までと同じように先祖を英霊としてここに祀ってもらいたいのならば、それはそれで自由だろう。それでいいんじゃないかろうか。これだったら、天皇陛下や総理大臣が参ってもかまわないはずだ。
そんなことよりも、この映画で気の毒なのは刀鍛冶のおじいさんだ。鍛冶職人に何か言わせようとするのは酷だし、インタビューの内容が言質を取ろうとする魂胆ミエミエでちょっと引いた。彼は技術者であって、刀というものが人を斬るための道具だってことくらい他の誰よりもよく知ってる。彼等はプロで、優れたものを作ることが仕事だ。自分の作ったものが不幸をもたらしたのなら、罪悪感は感じるだろうが、彼に責任はない。作ること、作ったことは罪じゃない。そこは守ってあげるべきでしょう。