めしいらず

ラルジャンのめしいらずのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
不良少年たちが使った偽札が巡り巡って一人の男の人生を破滅へと導いて行く。人は表沙汰になった最後の部分だけで出来事を見るけれど、そこに至るまでには関わった人々の生き様を反映したいくつもの行為と意志の段階を経ている当たり前。それがいくつも積み重なり今ある結果を生んでいる。世に厳然とある理不尽がそこに残酷に重なる。人生において偶然はそうそう起こらない。人々の様々な個性が様々に交錯した末にある今なのだ。それぞれの心の弱い部分、狡い部分は必ずや人となりとして表出し、関わった人を巻き込んで影響が広がって行くのだ。善い部分にだって同じことが言える筈なのに、何故だろう、悪しき部分ほど人に伝播して行き易い。殊にお金(ラルジャン)が絡むと過ちが起きがちだ。主人公が殺人に手を染めるまで転落して行くのも偶然ではなかった。どの段階かで己を御せていれば彼はここまでは堕ち切らなかっただろう。でも主人公と老婦人の和やかな一瞬に救いを求めたくなってしまう。己を律せられる者も律せられぬ者も四苦八苦しながら生きているのだ。
物語のどの場面からも徹底的にドラマ性は排除され、人々の行為そのものに焦点が絞られている。情動は描写されない。映像作品らしい美しい画もない。対象への関与も感情移入もしない冷徹な視座は揺るぎない。観客を狙った方向へと誘導しようとする企図が一切ないのだ。ここから何を掬い上げるかは完全に個々人に委ねられている。これは孤高のシネマトグラフ作家ブレッソンの遺作にして到達点だと思う。
再…鑑賞。
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