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ディア・ハンターのtrswのネタバレレビュー・内容・結末

ディア・ハンター(1978年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

まず青春映画として
この時代の若者たちを描いた作品にはちょっと前に見た「アメリカン・グラフィティ」があって、そこの対比でいうとこっちの方が染みた
AGには「寂しいけれど明るい未来」を感じさせる面があって(それは最後にひっくり返される) 、一方この映画は最初からベトナム戦争という滝壺が見えていて、その中での最後の楽しみが描かれてる
結婚式にかなりの尺を割くけどそれも楽しかったあの頃を観客にしっかり印象付けたい意図 戦争と一緒にしては不味いのはわかっている上で、僕も滝壺が見えているので

同じベトナム戦争を描いた映画では例えば「フルメタル・ジャケット」なんかではアメリカ軍を超えて軍隊という仕組み自体に対する告発が込められているけどそういう面はこの映画にはなくて、反戦のメッセージは当然あるにしてもそこは結構素朴

それよりも顕著なのは、この映画には1978年のアメリカ人が抱いていたアジアへの恐怖が克明に写されているということ
差別と言ってしまってもいいから、この映画が嫌い!という人の気持ちも当然だと思う

それはベトナムに対してというのも勿論あるんだけど、もう一つははっきりと日本に対してだと感じました
「スーツを着た」ベトナムの人々がロシアンルーレットの賭けに興じる場面は、日本の経済成長によってアメリカの立場が危うくなっていくという70年代後半の人々の危機感が反映されていると思うし、彼らの故郷であるペンシルベニア(ラストベルトですね)の鉄鋼業というのはモロに日本の煽りを受けた場所だと言っている人がいて唸らされた

最後に「God Bless America」で終わるのとかかなり強いパトリオティズムを読み取れるけど、この映画がギリギリで反アジアプロパガンダに終わっていないのは、彼らがロシア移民であるという出自が生み出す複雑性によるもの
冷戦の時代だからロシア系の人々がアメリカで受けている偏見も大きかったものだと思うし、それを跳ね返すためにオーバーな愛国心を示さざるを得なかったという側面があると思う

実は戦闘自体を描いている場所はほとんど無くて、それでもロシアンルーレットの場面の恐るべきスペクタクルがこの映画に緊張感をもたらしています 編集が見事
「度胸」みたいなものがいかに脆いか...

言葉少なだけどデニーロ始め俳優の演技が映えてる そしてメリル・ストリープの魅力

大好きな映画「バッファロー'66」への影響も随所に見られて楽しい
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