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魔女の宅急便のくりふのレビュー・感想・評価

魔女の宅急便(1989年製作の映画)
4.0
【やさしい気持ちで目ざめられた頃】

久しぶりにみて、改めて感心してしまった。いい映画です。

気になったのはラストの事件が、流れの中では唐突にくっつけたように見えてしまうことで、しかしそうなる原因もある程度わかるので、納得はできます。

まだこの頃は、宮崎さんも善人を善人として素直に描いていた。原作がそうだから、その影響もあるのでしょうが。

描画の積み重ねで厚みある飛行シーンはやっぱり見事ですが、雁の群れとの絡みでより、力強さを底上げしている辺り、さすが職人。ちゃんと野生動物の特性を脚本に溶かし込んでいるし。そこから続くカラスのエピソードも、次の登場人物へとバトンを渡して自然です。

少女の自立が縦糸ですが、性の目覚めも忘れず脇に置いていますね。

キキって、顔から上半身は成長する勢いがあるけれど、かぼちゃパンツに包まれた下半身は、男を受け入れる準備もその気もまるでない。発情に関しては、黒猫ジジが一歩リードしてしまう。

でもトンボや同世代の女の子と絡むと、そんな自分に葛藤する。まだ原因はわからない、乙女心の地下胎動をきちんと抑えているのがさりげなく豊か。

自身の魔女力(=居場所)に悩むのがお話の要になりますが、出会う人々とのかかわりの中で、ゆったりと解決に向かうことがわかります。

が、そう描いているから、ラストの事件がなくとも、また極論、魔女でなくとも幸せになれそうだと思えてしまう。関連人物とコミュニティを優しく、魅力的に描いた弊害でしょう(笑)。ラストの唐突感はこれが大きいと思っています。

少女の自立に関しては『千チヒ』と、天かける爽快感については『風立ちぬ』と、それぞれ比較するとその後の変遷がわかり易いですね。

宮崎さんって作り手としては正直な人で、自分の描きたいものを、世相を反映させダイレクトに出して来ると思っているのですが、この時はまだ、「やさしさに包まれること」が信じられていたんだな、と素直に感じられます。

エンドロールも何気なく巧い。魔女が廃れていくことは作中でも言及されていましたが、魔力と技術力の関係がそのまま、トンボの飛行機との関係に反映されています。

また、その後のコスプレブームも、ちょこんと予証していますね(笑)。

<2015.5.18記>
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