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コールガールのakrutmのレビュー・感想・評価

コールガール(1971年製作の映画)
4.4
ある男性の失踪事件の解明を背景に、彼と関係のあったコールガールと彼の行方を調べている私立探偵の間に恋愛感情が芽生えていく様子をコールガールの心の闇とともに描いた、アラン・J・パクラ監督のクライム・サスペンス映画。『アラバマ物語』などのプロデューサーであったアラン・J・パクラの2作目の監督作であり、彼の出世作であるとも言える。

失踪事件に探偵と、本作は一見するとミステリー映画に見えるかもしれない。いや、見えるかもと言うよりは、『クルート』という私立探偵の名前を冠した原題からは、ミステリー映画であると堂々と主張するという意図さえも感じられる。しかし、内容そのものは謎解きに重点が置かれているわけではないし、謎も唐突に解明される(ように個人的には感じる)ので、ミステリー映画としては必ずしも出来の良い映画とは言えない。

でも、本映画の価値はそこにはない。本映画で見るべきところは、互いに惹かれ合うコールガールと私立探偵を演じたジェーン・フォンダとドナルド・サザーランドの渋い演技にある。特に、ニューヨークで高級娼婦としてお金を稼ぎながら女優を目指すというしたたかさと精神的な不安定さが同居している女性を見事に演じているジェーン・フォンダが素晴らしい。心のどこかで拒絶しながらもクルートに惹かれていく一人の女性の可愛らしさまでも、きちんと表現している。それまで『バーバレラ』に代表されるようにセックスシンボル的な扱いをされていた彼女にとって、アカデミー主演女優賞に輝いた本作は、本格派女優としての出世作と言えるだろう。(そういう点では、邦題の『コールガール』のほうがタイトルとして適している。)

一方、無表情のままに豊かな表情を見せるようなドナルド・サザーランドの演技も印象に残る。ジェーン・フォンダとドナルド・サザーランドは反戦運動の同士であり、この頃は私生活でも恋人関係にあったそうである。二人の演技の他に、明暗のコントラストと登場人物の心情を上手くシンクロさせたフィルム・ノワール的な映像も見どころである。
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