くりふ

泥棒成金のくりふのレビュー・感想・評価

泥棒成金(1954年製作の映画)
4.0
【キャットはコピーキャットされ愛につかまる】

「スクリーン・ビューティーズ」での上映にて。

デジタルリマスター版とはいえさすがに黒の階調は潰れ気味だなとか、デジタル特有・白のエッジがビデオ気味でやなとこアリとか、ケーリー・グラントの高血圧(?)な顔色が心配だなーとか(笑)、画的にいくつか引っかかったものの、ヒッチをスクリーンで堪能できるめったにない機会、楽しんでまいりました。

改めて、ミステリとしてみるとスィーツですねぇ。犯人の動機がわからん(笑)。それにわざわざ犯行をコピーキャットすればコピー元が黙ってないのはわかる筈で、リスクヘッジ考えてたの?とか、犯人まわりの人間関係もこれだとヘンじゃね?とか、考え出すとだんだん腑に落ちなくなってきます(笑)。

これは、愛というモノを探り合う男女(…というか捕まえたい女)のお話とみる方が、私にはしっくりきます。事件にも心情的にわかる面が出てくるし。

で、グレース・ケリー演じるフランセスのツンデレ策のおかげで、愛と宝石が混じったように見えてくるところが面白い(笑)。お宝と自身をセットにすることで、ケーリー・グラント演じる元怪盗ジョンの視線を眩ませ、心に盗み入ろうとするが…。

母に「人形のように育った」と言われた彼女が、その擬態を使ったひと勝負。打ち上げ花火の人工的効果と相まって、件のシーンは劇中一の見せ場だと思います。

そんな受け取りをしたので、事件のオチと絡めた、愛と宝の混線から浮かび上がる三角関係…という柱がもっと強く立てば、より明快で面白かったろうに、と思いました。

終盤の「けっきょく誰だ?」の頃になると、ちょっと脇道掃除みたいな感覚を受けてしまいました。あの舞踏会が演出としては退屈だったことも大きいですが。ヒッチはあの手は不得手な気がする。イデス・ヘッド作品集みたいだったなー。

空撮チェイスなど、リヴィエラ・ロケのいい画も頻発しますが、本作は人物そのものと会話の魅力がいちばんだと思います。

私は、原語はあまり理解できてないでしょうが、相当オモロイ会話ができてることはわかるし、それできちんと人物が浮かび上がってくるところが巧いな、と改めて思いました。

「構想は苦手だが会話が得意」だというジョン・マイケル・ヘイズの功績は大きいと思います。

人物としては、フランセスがわかるし面白い。たまたま当てた石油成金の娘で、石油王でなく石油女王の娘として育った人物像が、グレースのキャラクターと描写とでとてもよく伝わります。芯は強いが経験不足でどこか危うい。

逆にジョンは最後までわからなかった。彼の歴史はわかるが本音が見えない。彼、本気でフランセスのこと好きだったんですかねえ?ジョンの方が、フランセスよりずっとクールだと思いました。

他に楽しんだこと…アメリカの石油王を描く映画ってたくさんあると思いますが、とりあえず本作の翌年公開、ダグラス・サーク『風と共に散る』での、ドロシー・マローン演じるマリリー…石油王に育てられ崩壊する娘…とフランセスを比較して、こうも違うもんかと面白かったのでした (笑)。

泥棒成金と石油成金がさぐり合い、けっきょく何を掘り当て、何を盗めたのか?

…弱みはいくつも感じるものの、それでもヒッチ映画は掘り甲斐あるなー、と実感したのでした。

他にも感想いろいろありますが、まとまらないのでこの辺で。

<2014.2.6記>
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