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秋刀魚の味のKenzOasisのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.0
まさかの初・小津作品が彼の遺作。
いつかいつかと言いながらようやく。
60年前に公開された本作、資料と化す前に観てよかったなと思った。

当然というか必然というか、やはりカメラワークは芸術的だ。とにかく洗練されてる。よくよく観てるとカットもものすごい数。人が話す時はわざわざ正面だし。
美術も凄まじいなと思ってたら森英恵さん。戦後の日本で、洋服が一気に席巻していくその時が、非常に美しく描写されている。

最初の会話から、セリフが妙に“ザ・セリフ”っぽい内容かつ淡白なやりとりだなあなんて思ってたけど、そういうのを好んでた監督だったのね。

ひょうたんの酔っ払いぶりと、小言でつつく幸一の妻が出てきたあたり、指で帯のようなのをくるくると弄るだけの路子(演:岩下志麻)の姿で失恋を表すことに代表されるような、「引き算された描写」がよかった。
一方で、「どうです、もう一つ」とか言ってものすごいペースで日本酒を飲ませてるのは笑ってしまった。あんなペースで飲んだら私はもう記憶なくします。

特筆すべきはやはり、トリスバーでのやりとりを経てからの平山(演:笹置衆)の哀愁ぶり。

「負けてよかったじゃないか」「好きな人と一緒にさせてやった方がいいからね」「自分のことは自分でするんだ」と話したり
お葬式の帰り?と聞かれて「まあそんなもんだ」と答えたり。
言葉が重なることによって、小津監督が平山という存在に託した価値観とともに、男たちに残る幼稚な身勝手さ、主人公である平山の孤独感が浮き彫りになっていく。

ついぞ秋刀魚は登場しないけれど、平山と同様に従軍経験のある小津監督にとって、平山のように思い耽ることや孤独と向き合うことに秋刀魚の味を思い出すことは欠かせないことだったのかもしれない。
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